2021年度大学入学共通テスト 漢文問題を解いてみた

 まず「良問」という印象である。高校生の学習事項を外れてはいない。難解な疑問・反語の句法は問われていない。共通のテーマに関する、詩と散文の両方を提示しているのが良い。「千里馬」と「伯楽」というエピソードを理解していれば、両者に共通するテーマは明快であろう。なお欧陽脩と韓非についての文学史的、思想史的知識がなくてもさほど解答に支障は無い。詩の題名が書かれていないのが少し気になる。

 

問1 「徒」、「固」の語の意味

 漢文を読み慣れていれば、良く出てくる語なので、読み方さえ知っていれば簡単な問題。「徒」は限定形として習っているだろう。これらは読みの問題にも出来るかな。

 

問2 「何」、「周」、「至哉」の解釈

 「何」は、下で「蕭森タル」と連体形で受けているので「何ゾ」と読む疑問詞であると考えるが、ここで、疑問文なのか感嘆文なのかの判断が必要。千里の馬を賞賛しているのだから感嘆文とみて、「何と」と解釈する。

 「周」は、「九州可周尋」で「尋」という動詞の修飾語だと分かる。しかし「あまねく」と読める高校生は少ないかも知れない。字義は熟語にして考えると良いが、思いつくのは「周知」「周辺」「周回」などか。

 「至哉」は、「哉」で感嘆文と知れる。人馬一体の境地を言っているのだから、選択肢②と⑤が馬の方に限っているのに比べ、④が適当とみる。

 

問3 「馬雖有四足 遅速在吾X」のXを選ぶ問題

 詩の偶数句末字なので押韻の問題だと分かる。近体詩であるということが前提だが、欧陽脩が唐宋八大家の一人であるという知識は常識的だろうし、そこを気にしない人は一韻到底を疑うことも無いだろう(形式的分類は「古体詩」になる)。あとは「心」「進」「臣」から選べば良い。引っかかるとしたら「進」か。しかし、後段の韓非子で、乗り手の心の問題だと言われている(ことを理解するセンスが重要)のだから簡単に分かる。

 

問4 「惟意所欲適」の訓読(返り点を付ける)問題

 これが一番難しいかもしれないが、「所」や「欲ス」が返読文字だという知識があればそうでもないか(「欲ス」は他の箇所でも出ている)。それだけでも④が選べる。また、五言句が上二字と下三字に分かれるという感覚があれば良い。「惟だ意ふ 適かんと欲する所」と読んだらいけないか?

 なお、こういう形式では、選択肢それぞれの下の書き下し文が、理解の助けになっているのか、かえって混乱の元になっているのか分からない時があるように感じる(今回問題があるというのではない)。

 

問5 「今君後則欲逮臣、先則恐逮于臣」の解釈を選ぶ問題

 「後則~、先則~」は「先即制人、後則為人所制」の故事成語を思い出させるだろうか。「則」の意味(同じく「すなはち」と読む「即」「乃」「輒」の違い)を理解していることが大事。「逮」の字義が「およぶ」だと知らなくても大丈夫だと思う。この問題は、最後の問題で問われる、このエピソードのテーマに関係してくる。

 一旦解答しても、繰り返して前後を見直し、検討することが必要である(時間的余裕の問題があるが)。 詩の中に「伯楽識其 徒知価千金/王良得其 此術固已深」とあるのが重要なヒントになっている。「王良」に注が付いていないのがミソかな。

 

問6 提示した二つの詩文から「御」ということの本質を読み取る問題。

 日頃からこういった設問形式に慣れるような授業(類似の詩文を提示して、共通点と相違点を考えさせるなど)をし、定期テストを作ってくれる教師がいると生徒も嬉しいだろうと思う。そうした教材の一部は教師用指導書に掲載してあるだろうが。