2018大学入試センター試験 漢文の問題分析

 大手予備校で発表している国語の平均点予想が、試験直後から次第に下がって、今は103~102点といったところになっているようだ(後日追記 結局104.7点に落ち着いたようだ)。
 自己採点の結果を見て、各問の簡単な分析をしてみた。問題は日曜の新聞に出ているので、誰でも見ることが出来る。

 解答番号29、「議」「沢」の語意の問題。議は論評か批判か、沢は恩恵か愛情か。微妙なところであるようだが、人物評で、好評なのだし、恩沢という熟語があるから正解は決まってくる。正解率は高かった。

 解答番号30、「知之」の意味。(今回の問題は白文の傍線部が一カ所で容易に思われるが、二カ所の波線部も白文であることが全体を易化させていない要因だろう。)「之」の指示する内容が、直前の「嘉祐平時若愚騃」を指すと速断してしまうと間違える。「独寇準知之」と限定しているのがミソで、寇準は世間の見方と違うように嘉祐を見ていることが分かる。それだからこそ自分の世評を尋ね、相となることについての意見を聴いているわけだ。

 解答番号31、「知開封」の「知る」が「つかさどる」、つまり都開封の知事だということなのだが、語彙力の問題だろう。「開封府に知る」のように読むと、「都で嘉祐と知り合った」の選択肢を選んでしまう。意外にも正解率が最低だった。

 解答番号32、傍線部A(白文)「丈人不若未為相。為相則誉望損矣」の書き下し。「丈人」は「あなた」と注にある。ここで誤答が多かったのは①(丈人に若かずんば未だ相と為らず。~)。しかしこれは、「A不如レB」の句法であるから、「不若丈人~」の語順でないとそうは読めないと気付かなければならない。①と⑤はこれで除外できる。二重否定になっているがそう難しくはない。なお、今年度は高校の授業から乖離したような難解な句法はなく、標準的な文章だったと思われる。

 解答番号33、傍線部Aの解釈(口語訳)。解答番号32より正解率が少しだけ高いのはどうしたことか。訓読=解釈とならないところが不思議。

 解答番号34、傍線部B「言聴カレ、計従ハレ」は、ⅰ誰の「言」「計」が、ⅱ誰によって「聴かれ」「従はれ」るのかという設問。ⅰとⅱの組み合わせを選ぶ。「自古賢相所以建功業沢生民者、其君臣相得皆如魚之有水。」とあるから、政策を実現するには主君(皇帝)との緊密な関係があってこそなのである。そこをよく読み取らず、「君主の政が民に届かない」というような意味だと思い込んでしまうと②を選んでしまう。正解率はかなり低かった。「水魚の交」という成語の知識の有無も関係してくる。難度は高いと思う。

 解答番号35、傍線部C「嘉祐所以恐誉望之損也」という理由を選ぶ設問。それは直前に「丈人之于明主、能若魚之有水乎」から、寇準が皇帝と緊密な関係を持てるかどうか疑問視しているのが分かるので②に決まってくる。次の設問でも言えることだが、古代絶対王権の時代のことであり、政治は皇帝の気分次第で決まることが多かった。現代の民主的な政治とは全然違うことを忘れては正解できない。(儒家の理想的政治論が実践されたような逸話ばかりではなく、現実の歴史をもっと知るべきではないかと思う)

 解答番号36、前問について書いたように、当時は、現代の民主的政治のように、「どのように人々と向き合うべきか」が相の心得るべきことではなかった。これは漢文以前の、高校生の歴史感覚の問題かもしれない。

 この他、人物の呼称が姓名だったり名だけだったり、字だったりすることで、人物関係に混乱してしまった受験生がいたかもしれない。これまでもそういう例はたくさん読んできているはずだし、注にもちゃんと書いてあるのだが、注をよく読まない人がいるのだ。

 本校だけ見れば、第四問漢文の平均点は全問の平均点より1~2割ほど低かった。前から解いてくるとどうしても最後に時間不足になってしまうということが往々にしてある。

 (一部修正した)