平成二十六年度大学入試センター試験国語(漢文)問題について

大問四 問7 傍線D
 
 荘子所謂以無用為用者比耶
 
 上の文は一見すると「豈~耶」が反語形であると考えられる。しかし本文の内容から、ここでは軽い疑問形になっているのである。このような疑問形は相手に答えを要求するのではなく、自分の考え・判断を示すものである。訓読文は「豈に荘子の所謂無用を以て用と為す者の比(たぐひ)なるか。」である。
 これについて若干思うところは、高校の授業ではこの「豈~哉」を疑問に訳す場合はまずないということであり、その点で、高校生に対する出題文として適しているかどうかである。
 
 元来、反語形・疑問形・詠嘆形は形としては同じで、文脈によって解釈が変わるものであり、そのことは何度か授業でも触れている。たとえば、「食える」と書いても、これだけでは疑問「食えるか?」なのか、反語「食えるか!」なのか決定できない。それは前後の流れで判断するしかない。また、英語の疑問詞WhatやHowと同じように疑問詞が詠嘆形に使用されることもある。しかし、それらを判断して問題文を疑問形として読めた高校生がどれくらいいるか。多くは傍線部の後にそれに対する答えがないから、疑問でなく反語だろうという判断をしたかもしれない。すると④を選んでしまうだろう。
 
 副読本としてよく使用される『明説漢文』(尚文出版)には、「豈~(乎)哉」の句形は「反語だけに用いられる形」として掲載されている。この前提で選択肢を見ればおのずと①か④に絞られてしまうだろう。
 一方、『漢文必携』(桐原書店)には、「豈~(哉・乎・邪)」の句形は「反語形特有の形」として掲載されているが、同頁下段には(「豈」の用法)として、(イ)詠嘆、(ロ)推測・疑問、と記載されている。
 
 (2月7日追記)
 尚文出版の営業の方が来たので言ってみたら、 「明説漢文」の143頁には「」の項目があって、*断定をひかえた用法で、「恐らく~ではないか」の意味を表すこともある。と書いてあります、とのことだった。なお、前の方にも付記する予定とのことだった。
 
 
 「無用の用」は第一学習社の教科書教材には無いので、道家の思想を説明する中で触れるか触れないかであろう。知らなくても、老荘思想の逆説的発想が分かっていれば良いと思うが、生徒は筍の話から飛躍してそこまでつなげられたか。
 
 出題文と類似の内容では、樹木の曲直によって伐採されたり伐採を免れる話がよく知られる。問題集「ルート漢文3」(中央図書)から引用してみる。
 
 荘子行於山中見大木枝葉盛茂。伐木者、止其傍而不取也。問其故曰、「無所可用。」荘子曰、「此木以不材得終其天年。」荘子出於山、舎於故人之家。故人喜命豎子殺雁而烹之。豎子請曰、「其一能鳴、其一不能鳴。請奚殺。」主人曰、「殺不能鳴者。」明日、弟子問於荘子曰、「昨日山中之木、以不材得終天年。今主人之雁、以不材死。先生将何処。」荘子笑曰、「周将処夫材与不材間。」 (『荘子』外篇山木第二十)
 
 
(1月22日追記)
○ 1単位程度の漢文の授業しか受けていない高校生に、20分の時間で、10字程度の長さの白文を3カ所も読ませている。これは平成12年度追試以来のことである。白文傍線部が2カ所あったのも、本試では平成15年、20年だけである。
 しかも、いずれも癖がある部分だ。傍線Aは「目す」とか「靳る」の語が難しい。傍線Cは語順が難しかった。二重否定はわかっても、「貴・賤」、「取・棄」の関係が不分明。(主語+無不+動詞+目的語)なら普通なのだが、「貴・賤」が主語のようになっているうえに動詞を受身に読んでいるから分かりにくい。「動詞+目的語」の語順を根拠に「貴を取る、賤を棄つ」と読んでいる②と④を排除せよということなのだろう。「非不悪寒寒きを悪まざるに非ず)」のように考えてはならないということだ。しかし、「狡兎死走狗烹」の場合のような受身の読みだとしても、これを二重否定にして「無不走狗烹」になるか。
 筍(物類か)が主語で、「貴なれば取られ、賤なれば棄てらる」「貴なるは取られ、賤なるは棄てらる」のような読み方はどうだろうか。
 傍線Dも、読みから全文の内容に関わっている選択肢であった。
 
○ 空欄補充で2語の組合わせを問う設問は平成23年本試以来2回目。これはその「敏・遜」よりは分かりやすかっただろう。
 
○ 段落分けの問題は初めての出題だった。段落分けしてある文章で、構成を問う設問は最近多かったが、段落そのものを分けさせる設問はなかった。そもそも段落分けに厳密な理由を見出すのは難しい。「夫れ」に着目すればいいというのは理解できるが、もう1カ所は考え方次第であるような気もする。短時間に文章の内容を把握し、段落分けをするのは難しい。
 
 現代文評論、小説、古文と読んで解いてきて、時間不足になりがちな漢文である。まして、今回のように「源氏物語」という難物の後ではなおさら余裕はなかっただろう。大人でも、国語科教員でも20分で読み切れるか分からない問題だと感じる(半日ぐらい眺めたら納得いくだろう)。これは時間に追われて焦っている受験生が十分に対応できる程度を超えてはいないか。今回の国語(現古漢)の平均点は、大学入試センターの中間発表で200点満点中97点くらいとこれまでになく低かった。
 
(1月23日追記)
 代ゼミ河合塾の問題解説が動画で見られる。実にあざやかに明解に説明するので、なんだこんなに簡単に正解が得られるのかと驚く。後知恵という感がなくもないが。
 傍線部Dは、「以無用為用」を「以~為~(~を以て~と為す)」のパターンだと即断している。そうすれば選択肢は1つに絞られる。なんて単純なんだ! 「以~為~」のパターンについては授業でもよく指摘しているが、生徒たちは、ここでそれを判断材料にして選択することができただろうか。
 今回の問題は、「以」の使い方についての知識が大きく関わっていたということか。
 
 設問数が1つ減った結果、1問当たりの配点が高くなった。オール・オア・ナシングのマーク式で、ますます1問の正誤の差による点差が大きくなった。7割方分かっていても、中間点は得られないのだから。
 日々の授業とセンター試験との関係を考える。何を教えればいいのか。最終的には選択肢を判別する受験技術に徹するべきなのだろうが、それを駆使できるだけの訓読の基本を身につけなければならないし、漢文の背景となる知識も必要だろう。