アフガン戦争の終わりと大国の幻想

 しばらく更新しなかったが、涼しくなったので書いてみる。 

 世の中は騒がしいが、まあほとんどのニュースは流れていく。

 尖閣周辺は少しずつ、しかし確実に緊張が増している。日本とアメリカが尖閣を中国に取らせることはないだろうが、中国は永久的にあきらめずサラミを薄切りし続けるだろうから、いつかは衝突するのは目に見えている。その時は小競り合いか前面戦争か?

 

 アフガニスタンから米軍が撤退した。20年の長きにわたった戦争が終わったというのだが、初期にタリバンを武力で打倒したのは勝利であろうが、撤退の様子を見れば、その後の民主的国家の建設・維持には失敗したということは明らかだ。

 ここで太平洋戦争後の日本の民主化という成功体験を持ち出すのはいささか古すぎるだろう。終戦直後に起きた朝鮮戦争アメリカは韓国を独立させたが、必ずしも民主国家とは言えず、民族の分裂を固定化させもした。そしてフランスの後を受けてのベトナム戦争では、圧倒的武力を以てしても完全に失敗した経験がある。(アフガニスタンについては、朝鮮やベトナムなど東アジア儒教・仏教圏〔とりわけ天皇制下の日本〕と違う、中東イスラム教圏であるという精神的違いも大きいだろう。)

 アメリカはこれらの体験から学ばなかったのか? 

 アメリカは二度の大戦で、ヨーロッパ及びアジアのファシズムを倒し、それぞれの国民を解放したという「栄光」に酔った体験が忘れられないのだろう。それが現実は戦争という殺戮の応酬の結果でしかないことを忘れ、「幻想」を省みることを(多くのアメリカ人は)しなかったのだろう。

 NHK「映像の世紀」で、キューバ危機の際、カーチス・ルメイ空軍参謀総長ケネディ大統領にソ連との全面戦争を進言する映像があった。やられる前にやる、戦争しかないという断言。ルメイは日本本土への無差別焼夷弾爆撃(特に東京大空襲)を行なった人物である。日本人にとっては死に神のような人物が、戦勝国アメリカでは英雄であり昇進した。朝鮮戦争でも多くの都市爆撃を行なった。そして新たな次の大戦争をも進言した。ケネディフルシチョフとの交渉で核戦争の危機を脱する。

 人々は平和のありがたみを感謝したが、ルメイを始めとする軍人や、軍産複合体の人間は失望したかも知れない。ケネディの死後、ジョンソン大統領の下、ベトナム戦争は激化し、やがて北爆へと進み、ルメイは「北を原始時代に戻してやる」と豪語した。

 どこかで、誰かの中で、何かが狂っている。それがアメリカだけでなく、中国までもが、かつてのソ連のようにそういう考えに染まっているとなるとさらに空恐ろしい。中国共産党軍国主義日本と戦って勝ったという「幻想」を一つの原動力にして国家を運営している。もう一つは文化大革命でも呼号された資本家階級打倒だろうが、これもまた幻想である。

 大国がこれらの過去の幻想に立脚し、それを現在に拡大再生産して自己保全していられる時代は、もうあといくらも無くなっていると強く感じる。その先はより良い世界であるように祈る。