中国の「夢」

 テレビに、貸した金を返せとせまる中国の人々が映し出されていた。庶民のおばさんなどが、不動産業者に貸したのだが、地方政府と絡んだ不動産開発は頓挫し、巨大なビル群のゴーストタウン=鬼城がそびえる(底なしの資源の浪費)。高利をうたった利息はおろか元金も返ってこない。
 このところ上海の株価も暴落気味で、財産をなくす庶民が多いようだ。新規に上場すれば、即株価が上がるというパターンが崩れてきて、今投資した人は大損する。
 大きすぎる貧富の差と閉塞感が、多くの(「無知」な)国民を、手っ取り早い儲け話に走らせるのだろう。そのなけなしの金も(あるいは借金してまで株に注ぎ込んだ金は)消えてしまった。業者のモラルの問題もある。というか、みんな利己主義、自分のことしか考えていない。

 この先中国にどういう事が起きるのかを考えると、そら恐ろしい気がする。

 膨大な軍事費(新型戦闘機開発、新型軍艦建造、サイバー戦隊等々)と、それと同じくらい膨大な治安警察(武警など)の維持費。(これらの金はどこから出てきたのか。労働搾取による安価な製品の大量輸出で得た外貨、人民から搾り取った税金、かつては文革で打倒したブルジョアの財産だろうか)
 それに反して乏しい民生費。かつての軍閥政治と変わらないではないか。
 反腐敗闘争に見る、恐るべき賄賂と手抜きの横行。しかしまた、それを摘発する側の人物も、決してそういう慣習と無縁でないのは周知の事実である。
 辛亥革命以来の民衆革命が起きてもおかしくはないが、89年6月4日の天安門事件以後、独裁政権は巧妙に情報を統制し、先手を取ってその芽を摘み取ってきた。地方から直訴しに来る人を待ち伏せして連れ帰る。門前払いする。庶民の暮らしを守ろうとする民権派弁護士は逮捕され長期に渡って拘禁される。

 AIIBも、自国経済を延命させる金集めのための策に過ぎないのではないかと思われてしまう。
 また、一帯一路という壮大な計画。しかし、南シナ海ではベトナムやフィリピンと領土問題で衝突し、人工島を領土と強弁する。そこに戦闘機が配備されれば、東シナ海のように防空識別圏(中国の認識ではほとんど領空)を設定するかも知れない。
 陸では中央アジアイスラム教徒との軋轢がある。新疆ウイグル自治区では、厳重な封鎖の中から漏れてくる報道では、爆発物を使った襲撃事件が続いている。ISと反政府勢力とのつながりが深まっているとも言われる。
 高速鉄道の輸出。新幹線の技術を導入したのに、当初の約束は無視して他国に輸出するという厚かましさ。国内に伸びた路線の長さは驚異的だが、技術や工事、運行の未熟さは覆うべくも無い。
 タイのクラ地峡や、中米ニカラグアグアテマラに運河を掘ろうという野心的な計画もあるようだ。
 だが、先んじて進出したアフリカの国々ではもう馬脚をあらわしている。その利己主義を発揮して、地元産業を淘汰し、資源奪取で環境を破壊し、国民の反感を買っている。

 中国の夢。遠い将来には世界規模で経済、軍事を牛耳って、アメリカに取って代わろうという夢。
 今日の世界で、共産党独裁下で、そんなことがいかにして可能か。今の中国は社会主義の国ではない。「共産党」という一部貴族(ある時から企業家も党員になれるようになった。逆に言えば、党員が国営企業を乗っ取り金持ちになった)の専制国家だ。そんな国が自由と民主主義を基調とする世界に認められるか。また大多数の貧しい自国民に支持されるのか。
 とてもそうは思われない。

 何かが起きたとき(2012年の夏から秋にかけて起きたように)、10万人以上の在留邦人の安全はどのようにして確保されるのか。
 どうも今の中国の指導者たちは、日本に対して、戦前と同じパターンで対応することしかできないようだ。体制の危機を乗り切るために仕掛ける反日暴動というテロが過激化し、あるいは内戦が発生し、巻きこまれた日本人に死傷者が出ないことを祈る。そんなことになれば安全保障法案など手遅れということになるかもしれない。