風立ちぬ

 二つ。
 
 一つ目は、「すごい。すごすぎる。」 5年かけただけはある。そして集大成と言える。過去の作品のシーンが思い出される部分も多かった。
 モブ・シーン、材質感。水の流れる様、風の吹く様、これまでの作品に見られた技術が注ぎ込まれている。このような動画を作れる人は当分現れないのではないだろうか。
 
 二つ目は、「日本」を感じた。自然=山、川、海、雲、風、雪、雨、月。ドイツのそれとは明らかに違って描かれている。そして「日本人」、大正から昭和にかけての日本人が描かれている。主たる人物は、農民や職工ではない、蟹工船や身売りの世界ではなく、ブルジョアの世界に生きる人たちである。庶民は黙々と歩く群衆として描かれる。あ、親の帰りを待つ子供がいた(主人公がくれようとする菓子を受け取らず逃げていく)。
 これまでの作品に描かれた主人公たち。あのようなひたむきな人間は、結局のところ、未来、外国、非現実の世界にいるのではなく、過去の現実の日本にいたのだった。
 
 零戦は最後に編隊で出てくるが、実質的なラストで出てくるのは十二試艦戦だ(と思う。→九試単戦だった)。七試艦戦の失敗から零戦まで、設計士としての創造的期間(10年)。関東大震災から東京大空襲までのおよそ20年間が時代背景にある。世界最初の航空母艦「鵬翔」までが登場。自分のような、プラモデルや戦争マンガ(ゼロ戦太郎、ゼロ戦はやと、あかつき戦闘隊、紫電改のタカ等々)、軍記(少年雑誌にはよく載っていた)で育った人間には懐かしいものだった。零戦開発の経緯についても小学生の頃に読んで知っていた。しかし、「紅の豚」のような空中戦は描かれない。特攻もない。
 
 貧乏な国が飛行機を作る。部品1個分の金で子供たちに天丼や菓子を食わせられる。その矛盾は十分に分かっているが、主人公はひたすら美しい夢を追った。美しい生き方をした。驕りも引け目もなく、ただひたすら誠実に自分の美意識にしたがって生きた。それは作者の生き方に重なるのかも知れない。限定された人生を生きなければならない人間の、その生の輝きとせつなさ。
 自分はしばしば涙ぐんでしまった。自分のようなじいさん向きの映画なのかも知れない(失礼)。
 
 「俺たちは武器商人ではない」 技術屋は、戦争の現実も忘れて技術的追究に没頭する。
 カラシニコフ自動小銃を設計した男は悪魔か? ノーベルは? マンハッタン計画に参加した科学者たちは? B29を設計した技師は? 零戦堀越二郎は?