いわき日記 その二

 23日、朝早くつばさに乗ったが、自由席だったので郡山まで座れなかった。ちょっとつらかった。
 いわきに降りると山形より日射しが強く感じられる。駅からアリオスまでの途中に予約したホテルがある。その場所を確認し、会場に向かう。
 アリオスには大劇場と中劇場、小劇場がある。2階に上がって右手が中劇場。外のスロープからも2階に入ることが出来る。
 
 以下、観劇しての感想を書きますが、時間が経ったこともあり記憶があいまいで、間違っているところもあるんじゃないかと思います。失礼がありましたらご容赦ください。
 1時開演。チャイムとともに客電落ちていく。非常灯も足元灯もないようで、真っ暗になる。舞台何もない。背景黒幕。この会場の床面は元々黒くなっているようだ。タッパがあるにもかかわらずサスが全く見えない。ブリッジがあって、介錯棒なんか使わないのだろうな。
 
 上演3 佐賀県佐賀東高校 「錆びた真実と、邂逅に抱かれて。」
      作、いやどみ☆こ~せい 佐賀東高校演劇部
 
 パンフレットに、「『偽物』の世界に魅了され、翻弄された少女を描いた作品」との説明がある。
 白いボックスに女生徒(権田沙羅)が座っている。独白。演劇部員だが、1人しかいないため一度も舞台に立ったことがないのだと。芝居を作るように照明の指示をしたりする。そこにもう1人女生徒が登場。新入部員の一年生だという。彼女が沙羅を叱咤して、自分の作・演出でミュージカルを作ろうという。照明などの指示も彼女がする。さらに他の新入部員の男女生徒たち10人ほどが登場。権田以外みな裸足である。彼らによってボックスが数個と高足と36の平台1枚、3段の階段が持ち出される。上下にボックスが積み上げられ、中央の平台が作業台となる。筋書きは反政府組織?の偽札作りの話。ここは印刷工場なのだ。サラは才能を発揮して原版を描く。これが精巧で本物と区別が付かない。賞賛されるサラ。ミュージカルなのでみんなが歌う。歌上手い。特にサラ。
 この、劇を作っていくシーンはいわば権田の「妄想(願望)」である。それと交代に「現実(回想)」のシーンが現れる。ボックスが並び、生徒たちが座って教室となる(しかし、裸足であるのは非現実的な存在であることを示しているのだろう)。一見仲の良いようなクラス。実はいじめもある。いいかげんで生徒から馬鹿にされている担任教師。
 無記名で提出されたワーク。1人が自分のだと言う。沙羅は提出したが、未提出と言われる。先の子が未提出なのだがわざと自分のものにしたのだ。美術の得意な沙羅は裏表紙に絵を描いているので分かるのだが、相手は開き直る。担任も信じてくれず、こんなことで沙羅は不登校になった。
 沙羅が好意を持つ副担任渡瀬(妄想の中ではワトソン。靴を履いている)。沙羅の自宅を訪れるが、部屋の扉は開かない。 妄想の中の芝居作りは進むが、奇妙なことに次第にサラが主導権を握り、最初の新入部員の方が取り残されていく。焦る新入生(妄想の劇中ではイザベルだったか?)妄想の中ではクラスメイトが一緒に芝居を作り、沙羅は主人公である。
 教室。担任、自分の車を傷つけた男子生徒と喧嘩になり取っ組み合い。生徒たちの囲む陰で何かが起こり、生徒1人倒れる。教師の暴力か。副担任が事情を聞く。「担任が殴ったというのはほんとうか?」他の生徒たちから強要されて沙羅が答える。「…ほんとうです。」 
 秘密の印刷工場は摘発されそうになる。原版を破壊するサラ。工場の扉を開ける音を指示する新入生。しかし開かない。混乱する中、最後の最後に扉が開き、ワトソン=副担任が登場。「妄想」と「現実」が重なり、「沙羅」だった生徒が実は新入部員で、新入部員が実は沙羅であるという逆転が起きる。「権田!」「先輩、いっしょに芝居作りましょう」というような台詞(記憶あいまい)。この少女は引きこもりから解放されたのであろう。感動的ではある。
 
 照明は、「妄想」部分ではSSが主で、「現実」部分ではフロントが入るという切り替えが行われる。どちらもシーリングが弱い感じ(SSだけだと顔の正面に影が出る)。
 
 歌も動きも上手い。演技も上手。すばらしい。ただ、ストーリーは少し混みいっている。現実の学校生活で自分を見失った子が、引きこもった中で自信を回復していく。そのきっかけは妄想の中での、新入部員に勧められての芝居作りである。
 が、引きこもった沙羅と新入部員は会ったことがあるのか? 部員が入ったと聞いたことからの妄想だったのか? 知らない人物が妄想の中に出てくるのは変だ。そうでないとするならば、自分の中に自己解決する鍵が初めからあったことになるのではないか? 登場人物が逆転する構成は面白いが、今ひとつその必然性が腑に落ちない恨みもあった。
 教室内での生徒同士の人間関係。教師と生徒の関係。信頼のかけらもないように描かれている。それは現実にあることなのだろう。しかし、その中で副担任だけは権田とかろうじてつながっている。また、新入部員だけが権田を慕うのはなぜか? そこにもっと明確なエピソードを築けなかったか。人間の心情理解の深さ、役柄と役者との深い共感はあるのだから、もっと観客が登場人物に感情移入できるような描き方が欲しい、と自分などは思うのだった。
 
 つづく