いわき日記 その三

 開場時、自分の2、3列前に男子生徒が数人座る。格好いいというべきか。男子校の雰囲気がある。後で分かるのだが、彼らは松江工業の部員さんたちだった。
 
 
 上演4 新島学園高校 「厄介な紙切れ―バルカン・シンドローム―」
     作、大嶋昭彦(顧問)
 
「厄介な紙切れ」とは明日の世界史の試験問題である。なぜか、ある生徒がもらいに行った予習プリントに紛れ込んでいたのだ。
 
 背景黒幕。教室。正面奥に、黒板のある幅3間ほどのパネル。その上・下に斜めにカットした半間ほどのパネルが付いている。クリーム系の色。黒板には明日の試験の科目名が書いてある。黒板の上にはスピーカーが2個。黒板(チョーク受け部分はない)の両脇には掲示物。教卓と教壇(平台2枚)。そこに男子生徒2人がいる。漫才のような会話。手前に倚子と机が4列×4脚くらい? 奥を向いて並んでいる。上手手前だけは3人の女生徒が客席を向いて机を並べて坐っている。下手手前の倚子に奥を向いて1人の女生徒が坐っている。最後に一度暗転する他は、このセットで一貫して話が進む。
 
 はじめ、男子生徒同士の会話と3人の女生徒同士の会話が交互に繰り返される。一方が話している時は他方がストップモーションになる。その切り換えのタイミングは絶妙である。彼らは居残って明日の世界史の試験に備えて勉強しているのだが、会話の内容から、両者ともかなり適当な生徒であることが分かる。
 そこに上手より女生徒登場。このおとなしい子が、予習プリントを先生からもらってくる。下手の勉強ができる子と仲が良いようである。その前に着席する。やがてその1枚が試験問題ではないかと気づく。持って来た生徒は返してこようと言うが、上手の女の子が、先生の過失なのだから返さずにいてもかまわないと言い出す。今から作り直す先生も大変だろう、と。やや争うが、取り合いの中で問題用紙が破けてしまう。こうなったらいよいよ返し難い。男子生徒も勉強のできる子も同調して、問題を解くことになる。事態はずるずると悪化する。
 問題は第一次世界大戦時のバルカン半島の情勢らしい。登場人物の名前が、なんとなく関係各国の国名に似ている(土井=ドイツ、江木=イギリス、富良野=フランスか)。最後の論述問題は優秀な子でも解き難い。逆にやる気が湧いてくる。
 近くに他の生徒がいないのを確認して二手に分かれ、解答作業が始まる。上手トリオは進まず、中央奥の男子プラス優秀女子はどんどん進む。おとなしい子は離れているが、上手トリオから質問されて答えてしまう。
 やがて、女子サッカー部の生徒(米山=アメリカか)が後輩(大和=日本か)を連れて戻ってくる。慌てて隠すが、勘の鋭い子でこの場の状況を理解してしまう。
 
 校内放送。プリントをもらってきた子が呼び出される。その子はプリントを持って職員室に行く。他の生徒たちもいたたまれず、ついて行く。
 
 暗転。2人(土井と大須賀)が先生から叱られている。この2人だけが生徒指導の対象になったのだ。事の経過上、主犯格ではある。もう1人(伊藤)は泣いて逃れた感じ。(~敗戦国ドイツの外相ヘルマン=ミュラーは憤然としてヴェルサイユ条約の調印書に署名したそうな~とパンフレットにある。)
 先生説教して去る。2人は使えなくなった問題用紙の処分を言いつけられる。帰ろうとしてつまずき、手に持った問題用紙が散乱。あーあ、で幕。
 
 エピソードを端折ってあるが、大体こんな話だった。集団カンニングという行為だが、全然軽い調子で進む。「修学旅行」第一次世界大戦版? 面白くできていると思う。
 役者さんは、みなさんとても達者で上手かった。
 
 つづく