いわき日記 その六

 上演8 北海道登別明日(あけび)中等教育学校 「コイカツ!」
     作、橋本若奈(生徒)
 
 題名からは「カツっ!」を連想するが、こちらはメンチカツではなくてトンカツである。
 素舞台。ホリゾント使用。中割?が狭めてある。装置は木製テーブル一つだけ。主人公の自宅であるトンカツ屋、学校などを演じ分ける。しかし、こういう設定の場合、履きものの処理に苦労する。靴を履いたままで和室に座るという事態も起きる。
 母がトンカツ屋の店を開ける仕種、カツを揚げる仕種などは無対象だが良くできている。他の小道具もほとんどないが、どこまでを無対象にするかは難しいところで、靴の件もあるが、アンバランスな感じを与えてしまう危険性もある。衣装は、母親はエプロンにバンダナ。その他、娘・生徒は制服。
 
  母が1人で切り盛りする商店街の小さな総菜(カツ)屋。母子2人の生活を支えている。近所ではおいしいと評判で、娘にも継いでもらいたい様子だが、娘にその気はない。近所の主婦連の会話する場面は一般によく使われるパターンだが、生徒はこういうのが好きなのだろうなあ。自分も使うけど。
  カツ屋の娘は朝から油臭くなるのを嫌い、首から消臭スプレーを下げていて、しょっちゅう自分に噴霧している。母親の作る弁当は毎日カツばかり。自分が片思いの先輩に心をこめて作ったお弁当にもカツ(これでコイカツ)。母親のアドバイスもあって美味しく出来上がるが、先輩は肉があまり好きではないと分かってがっかり。
 でも母の姿を見てトンカツの素晴らしさに目覚めた娘は、店を継ぐ決心をする?
 
 生徒の創作であるが「等身大」の女子高生と、その母親との関係を上手に素直に描いている。演技は元気で軽快。友人との会話、先輩の友人との会話等々、ほぼすべて舞台前で演じられるので、横の動きや正面向きの演技が多かったように感じる。表情はよく見えた。開校6年の学校なのだと。
 
 
 
 上演9 精華高校 「駱駝の溜息」
     作、山口大樹(生徒)・黒崎裕基(生徒)
 
 上演日に、会場受付で独自のリーフレットとアンケート用紙が配られた。全国大会で取材があり速報が出るのは普通だが、自前の前宣伝は珍しい。
 
 背景黒幕。舞台中央に黄色いプラスチックケースが4×3個くらい。その上に畳?が敷いてあって、座卓がある。1人が座って箱からミカンを取り出しては食べている。奥の上・下に段ボール箱が2、3個ずつ積んであって、一方にはゾウ、他方にはトラの大きな頭(被り物)が置いてある。まわりに数脚の木の倚子があり、他の部員が座っている。部員が3年生5人だけの演劇部室である。ただし1人(女生徒)は幽霊部員。
 新入部員勧誘の時期。部紹介で土下座して入部をお願いしたが、はたして入部希望者は来るのか? はなはだ心許ないという状況である。
 大阪の高校生ということでお笑いを期待されるが、結構おとなしい生徒さんたちのようだ。控えめな?ギャグだが、それもかえって面白い。ミカンを食い続けるとか衣装がボロボロに破かれるとかは古典的ギャグであろう。結構、オーソドックス。
 入部希望の頼りなさげな男の子が1人やってくる。先輩達は歓迎しているのかいないのかよく分からない。この子が入らなければ部員ゼロということになる。
 3年生は、部長の発案で未来の演劇部員に演劇部とは何かを伝えようと、部室にビデオカメラを取り付けて日常を記録することにする。こうすればいつかきっと後輩に伝えることができる。
 後半、1人ずつ各自の演劇部生活を振り返る。客席側にカメラがある設定なので正面向きの独白になる。照明が中央に集中。この3人の告白(真情吐露)は、役柄というより、ほぼ役者の実際と重なるのだろう。それは観客の高校生演劇部員に、演技を越えた深い共感を呼ぶようだ。
 最後、全員で入部のお願い。幽霊部員と新入部員が土下座。新入部員が、ゴツンと音を立てるほど頭を床に打ち付ける。
 
  以上の2上演は、技術的には素朴な印象があるが、役者の地が生きていて魅力的であった。
 
 つづく