第8回春季全国高等学校演劇研究大会(北上)2日目

 シャトルバスで会館に着いたのが11時。小ホールを覗くと岩手女子高さんの上演が始まるところだった。こちらでは第1回岩手県高等学校春季演劇合同発表会が行われているのだ。
 『ナリタイ(仮)』 作、岩手女子高校演劇部
 等身大の女子高校生たち、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を下敷きに、自分たちは何になりたいのか考える。それぞれが今の自分を見つめたとき、自分たちは雨にも風にも負け、欲があり、自分を中心に考え、東に被災者がいてもたいしたことは出来ず…そういう者がわたしです、という明快な自己認識に至る。
 小ホールの客席が持つ雰囲気によくマッチしていた。踊りや歌が入るのもAKB劇場みたいだった(行ったことはないが)。舞台には教室の机が4脚、四角に合わせて置いてあるだけ。椅子が5脚。
 とてもいい、高校生らしい好演だった。岩手県なかなかいいぞ。
 3年生がこの時期まで舞台に立てるという企画もすばらしい。ここまでお疲れ様でした。
 
 
 上演4 徳島県立富岡東高等学校羽ノ浦
      『夜帰(ヤキ)』 原案、川瀬太郎  作、村端賢志
 
 静かだが、しんしんと心に染みてくる芝居。この洗練された感じは好きである。
 文化祭を翌日に控えた夜、高校の一室。半分に分けて鉄道愛好会と舞台小道具愛好会が展示準備をしている。セットは教室の角を中央奥にした三角形。非常にリアルに作ってある。下手側が黒板と出入り口の引き戸。黒板には鉄道愛好会の字が書いてある。上手側が壁と窓。壁には小道具展示の貼紙。窓にはカーテンがあるが、窓自体しっかりと開閉し、ガラス代わりにアクリル板のようなものが入っている。この壁の配置は、鉄道模型を使っての影の効果を生かしている。背景は黒幕でホリゾントは使わない。
 中央にガムテープで部屋を分けるラインが貼ってある。上手が演劇小道具展示だが、ここは演劇部から分かれたメンバー3人(中心はヒトミ)がやっている。そこに、部室で練習している演劇部が来て、戻るように説得する。しかし、次の公演に顧問の脚本を選び、自分の脚本を選ばなかった部員たちの裏切りに対する怒りから戻らない。
 下手ではゲージの小さな鉄道模型を組み立てる男子。
 この模型の列車にLEDライトを装着して走らせる。部屋の明かりを消すと、あたかも実際の列車が走っているかのように、鉄橋や架線の影が壁に映って動く。
 この男子は、以前、友人である生徒会長といっしょに家出を試みたが、今いる場所を離れてやっていけるだけのもの(自信)が実はなかったことに気づいて帰ってきた。周囲からは「出戻り」と馬鹿にされている。(追記 実は家出は鉄道ではなく夜行バスであった。その際の車内の様子を部屋の中央に並んだ椅子で生徒たちが再現する。これは、分かるけれどなくてもよかったかもしれない)
 出戻りといえば、ヒトミは演劇部に出戻るわけにはいかない。しかし、部員たちは、今まで私たちのために脚本を書いてくれていたんじゃないの? それなのに一度選ばなかっただけで私たちを裏切るの? 両者の思いが通じず、もどかしい時間が過ぎる。
 音鉄の男子の家出とそこで見出した自分の実像の話を聞くうちに、ヒトミのこだわりもほどけていく。
 ヒトミは部室に戻り帰り、1人残った男子が電車を走らせる。レディー、ワン、ツー、スリー。
 壁に映った男子の影の周りを架線の影が流れていく。
 
 しみじみとしたやさしさに満ちた舞台だった。少し静か過ぎたきらいはあるだろうが。
 大変良かったです。お疲れ様でした。
 
 (以下、30日夜追記)
 
 上演5 市立函館高校 『おとめのゆめ』 作、市立函館高校演劇部
 
 てっきり「キラッキラ プリティイカ」がタイトルかと思っていた。町内会だかで運営しているご当地キャラ、というか戦隊モノ。最近の北海道代表は戦隊モノが当たるのか?
 悪役を顧問が演じる。これありなの? 主役の美少女役(踊り、振りが上手い)がやめるというので、後釜を探すことに。マスコットキャラクター(ゆるキャラ)の着ぐるみの子は激しい人見知りで、新入りのストリートシンガーは踊りができない。では、司会役のおばさんが? これが意外にも踊りが上手いときた。子供の頃、ピンクレディーの振りを覚えたというだけはある。おばさんの幼い娘は母親がイカなのを嫌がっている。悪役はお父さんである。…そのほか細かい筋書きは忘れた。
 楽しいのであるが、数人立ち尽くして会話するような場面が続いて、やや集中を削がれた。
 
 装置は中央奥に台。上にキラッキラ プリティイカのロゴ看板。左右に波模様の描かれたパネル。
 
 お疲れさまでした。
 
 
 上演6 岡山県立岡山南高校 『生徒会(ぼくら)とわらしとはじまりの夏』 作、岡山南高校演劇部
 
 中割の線にL字型に立てた8尺高のパネル。下手1間、折れて上手まで3間半。角に1間の出入り口(2枚の引き戸。奥にかがみ)戸にも壁にも窓はない。全体に汚しがしてある。その前に箱や長机。生徒会室である。全体に奥になり過ぎていて、もう1間前に出したら客席に近くて良かったろうと思う。
 
 生徒会長が変わっていて、役員たちに妖怪のあだ名をつける。ぬりかべとかネズミ(男)とか。夏休みに震災ボランティアを企画し、ペットボトルのキャップを集めることに。
 東京から転校してきた女生徒が加わる。この生徒の呼び名は「(座敷)わらし」。この子は実は福島県(郡山)からの避難者である。原発事故・放射能汚染からの避難者がかかえる問題を取り上げている。今更帰ることが出来るのか、離れた土地で、福島出身というだけで言外の差別を受ける、等々。
 非被災者には分からない微妙な心理と心の傷。「わらし」は居づらくなり、カミングアウトした後、生徒会室に来なくなる…。
 
 部員のみなさんでテーマについていろいろと話し合ったであろうことがよく受け取れた。ただ、ドラマとして構成する段階は、まだ生で不十分かなと感じた。
 でも、あれから3年、遠い県で大震災の問題を取り上げるという難しい試みによく挑戦した。
 お疲れさまでした。
 
 (以下31日追記)
 
 上演7 宮城県名取北高校 『鼻と糸トンボ』 作、安保 健+名北(なときた)演劇部
  東北大会で観ている。小学生の世界を借りて、人は自分自身をいかに認識するかを考えさせる作品(と見えた)。「鼻」は野球クラブで誤ってバットが当たり鼻骨を折った男の子、吉川優。手術後、自分の鼻が低くなったことにコンプレックスを抱き、マスクを外せなくなったために、給食も別室でとっている。「糸トンボ」は糸のようにか細い手足の男の子、今野まさき。たぶん悪性腫瘍の治療で3年間入院し、他の子からは半ば忘れられている。
 釣りをしていて仲良くなった2人、それぞれに好きな女の子がいる。ここからは戯画化されたドロドロの愛憎模様が小学生という皮を被って演じられる。映画タイタニックのあの名シーンを演じるのが理想だ。今野は妙に大人びていて、名探偵コナン(体は子供、頭脳は大人)のようである(実際、似たようなブレザーを着て登場する)。優はそんな今野の考え方に少しずつ感化されていく。が、マスクは取れない。
 鼻の悪夢にうなされる優。作り物の巨大な鼻が踊り廻る。こういう作り物の使用はこの作者ならではのものと思う。悪夢と女の子との妄想にうなされる優をバカにする妹、とこれもまた夢。
 運動会が近づき、再度入院する今野は100㍍競走に出るという。優はマスクのために早く走れない。当日、ビリで転びながら走る今野をみんなは笑う。しかし、マサエだけは泣きながら声援を送っている。やがてゴールインしたとき、あたりは静寂に包まれた。
 優の走る番だ。マスクが邪魔で走れない。が、息絶え絶えの今野が声を振り絞ってがんばれ優君と叫んでいる。無我夢中になってマスクをかなぐり捨て、走りきる優。救急車で運ばれた今野はそのまま入院となる。見守る母に言う。僕は3年間この病室の天井を見て大人になったんだよ。これは『タマゴの勝利』の「先輩」に通じる。死を身近に感じる闘病の日々に絶対的な寛容を培ったというのだ。
 ラストシーン。「ダルマさんが転んだ」で、また遊び出す子供達。今野もいっしょになって遊んでいる。やがてふと、今野の姿が消えている。子供達の動きが止まり、静かに下手を見やる。これは一瞬今野の死をイメージさせるが、あにはからんや、袖からタイタニック号が出て来て、その舳先にはマサエに支えられて手を広げる今野の姿があるのだった!
 今野君(役名と同じ)は実際に体が弱く、舞台にいられるのは10分が限度なのだと聞いていたので、彼が舞台を走ったときには本当に心配してしまった。
 素舞台の全面を使い、自由に動き回ることのできる実力を持つ部は少ない。創部してすぐに『好きにならずにはいられない』で全国に出たその力は、やはりただ事ではないのだ。
 しかし、60分を少しオーバーしたようだが、「勝負」のかかったコンクールと違って、春フェスでは観客といっしょに楽しもうという気分があったようで、自分としてはより緊張感のあった東北大会の舞台の方が好きである(初めて観るのと2回目という違いはあるのだろうが)。でも、幕の下りた後、ずっとタイタニックのテーマが流れていたのは余韻を持たせて良かった。
 お疲れ様でした。