山形演劇鑑賞会第321回例会 『殿様と私』 作、マキノノゾミ

 10月6日(水)18:25~ 於、山形市民会館 上演時間、2時間35分(休憩15分)  
 2列目、上手端の席で観劇。伝統ある劇団のしっかりした仕事。少しも飽きさせない。思いも寄らぬ展開に笑わされる。狙い通りに笑わせられているのだが、嫌みに感じない。 ユルブリンナーとジュリーアンドリュースの『王様と私』の翻案と思うが、明治時代の日本と欧米諸国との関係をかぶせて、良くできたお話になっている。時代の変化に対応できない殿様と家令、足が不自由で他人の前に出られない箱入り娘が、アメリカ婦人との交流を通じ、変化していく様が分かりやすく描かれている。
 明治20年頃、華族白河家の当主は大嫌いな鹿鳴館の夜会に出るためにダンスを習うはめになる。来日中のアメリカ人鉄道技師の妻アンナが教師となる。言葉も通じない2人が、文化・習慣・男女の違いから対立を繰り返し、しかし人間として誰もが理解できる互いの苦悩…戊辰の役で死に損ねたという負い目、亡妻のこと、一方は病気で亡くした愛娘のこと…を打ち明けるまでに近づくことになる。(いや、お互い日本語で話しているのだが、アンナは英語で話しているというお約束。最初のちょっとしたやりとりで、観客に逆バイリンガル?のお約束を納得させてしまうのが上手い。)
 どの役者もしっかりした台詞と演技で安心して観ていられる。加藤武さんもお元気である。足の不自由な娘雪絵役は、暗転して袖に入る時も足を引きずっていた。(しかし暗転が本当に真っ暗である。)たかお鷹はちょっとした仕草でもおかしいが、シリアスな部分もとてもよい。加藤武との、殿様・家来コンビはドンキホーテとサンチョパンサみたいで絶妙である。車引きの熊田三太郎は狂言回しのようになっていて結構おいしい役であるが、大変良く演じている。女優陣もいいけれど、アンナが本当に外国人とか2世の俳優だったらどうだったかなと思ったりする。
 衣装も装置もさすが、立派である。豪華な居間?に椅子とテーブルが数脚。奥に廊下(縁側?)その奥は紗幕を通して庭が浮かび上がり、四季を表現する。手前の部屋は平台の高さで4間幅に作られていて、上下は囲まれて居らず、非常に見やすい。本火(裸火?)を使ってランプを点けたり(ランプ自体は電灯だが)、葉巻を吸ったりするが自然な感じである。飾り壺の仕掛けも効いていて楽しい。
 大満足の作品でした。