プロセス和 第1回プロデュース公演(2)

 「えすけいぷ ―脱出―」 作・演出、佐藤 杏  
 平成25年11月3日(日) 13時、15時半の2回公演  山形県生涯学習センター遊学館ホール
 入場数 80人+70人で150人くらい
 
 山南高映画演劇研究部OBを中心とした有志13人の公演。基本、2人芝居であるが、デモ隊が9人登場する。1968年から1969年にかけての学生運動最盛期、半年間の世相に合わせ、一見対極にある2人の若者を同じボロ下宿の一部屋に住まわせて、青春の挫折とそこからの旅立ちを描いた。
 上級国家公務員試験甲種を受験すべく苦学する早稲田大学4年生青野の部屋に、全共闘所属のしんのすけ東京大学1年生が転がり込む。前者は山形県真室川出身の田舎神童で高校の応援団長だった。後者は大金持ちの坊ちゃんで世間知らずのへなちょこである。新宿騒乱事件から安田講堂の攻防まで、しんのすけは初めは逃げ腰だが、後では自ら飛び込んでいく。
 この二人の弥次喜多のような生活エピソードで笑わせつつ、互いの目指す理想の食い違いを際立たせながら、共通の青春の悩み(壁と挫折)に真摯に直面する姿を浮き上がらせた。終幕はすがすがしい感じで、うちの生徒の感想には「すっきりしました」という言葉があった。
 
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 客電落ちて闇の中にジェットストリームの曲。ラジオ深夜便を聞きながら受験勉強する青野にスポット。中割幕のラインに2尺半の高さから4枚の窓(古風な枠だけ)が立っている。一番上手の窓だけが開閉し、そこから出入りする。ホリゾント使用。前は卓袱台や古い小さな木の座机や本棚、鍋、洗剤(ビーズ)、踏み台、石油ストーブ、段ボール箱数個が部屋を形作る。これらは後で、中央で部屋を二分するバリケードになる。
 学生デモ隊のシーン、両大臣柱の所のスポットライトから目つぶし。観客に向かってのアジ演説。客席にデモ隊登場。シュプレヒコール、会場内デモ行進(歌あり)。45年前の当時を知る(自分の1~2年上の)世代には懐かしいものだった。当時を知らない人にも、少しでもあの雰囲気が伝わったかと思う。
 
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 部屋の中でもヘルメットを取らないしんのすけ。幼い時に見た深海底の映像で、累々とした蟹の死骸を忘れられない。彼のヘルメットは蟹の甲羅だったのだ。ヘルメットを目深にかぶって甲羅の中に入れば自分の弱さから逃げられる。青野はむしり取って言う。「蟹は世界を変えようなんて思わない! 蟹は戦いなんかしないだろう!」
 受験に落ち、旅に出る青野、ボロ下宿に残るしんのすけ。それぞれが新たな歩みを始める。
 
 二人の対照が面白い。台詞運びはゆったりした感じで分かりやすかった。声量は十分だった。
 青野役の青野(役と同名)は漢劇ウォーリア―ズ、しんのすけ役の関口は舞台工房に所属している。
 
 照明・音響は、1回目はややぬるいかんじがしたが、2回目はタイミング、音量とも良くなったと思う。騒乱シーンの赤いホリゾント明滅やストロボも象徴的で良かった。衣装については、東京でも冬はもう少し厚着ではないかと思ったりした。
 
 自分も少し関わったので、身びいきな感想になったかも知れません。ご来場くださった皆様、本当にありがとうございました。