舞台美術について

 ベテランの先生方について「照明のM井、装置のA部」などとと聞いたことがある。各人の得意分野があるということだ。自分は装置を考えるのが好きである。仕掛けを考えるのも大好きだ。まあ所詮、素人考えなのだが。
 
 ある作品を上演しようとした場合、まず舞台美術を考えるだろう。アクティングエリアを決め、役者の動線を決めなければならないからだ。装置プランを決めるのと同時に照明プランもたてなければならない。
 会場の持つ条件も考慮しつつ、「作品の要求する設定」をどのように表現するか。リアリズムの作品なら、リアルなセットが要求されるだろう。一方では、こないだ演劇教室で来県した東京演劇アンサンブルさんのように、「うちは抽象舞台」と言い切る劇団もある。
 
 高校演劇では、仕込みに20分程度しかかけられず、また、多くの部では立て込みにかけられる部員数も限られるので、そう大きなセットは組めない。今年度の全国大会、第1上演などは、大人数の部だからこそあれだけのセットが組めるのだ。
 部費や生徒会補助に余裕がある部では、外注して大規模な装置を作るところもある。
 部によっては部員、顧問に装置製作のノウハウがないために作れないという側面もある。
 
 うちは女子校だが、それなりの装置はできる。昨年はリアルな台所と座敷、4枚障子(開閉可)の奥に廊下というセットを組んだ。台所はフローリング風マット、座敷がパンチカーペットを敷いた。リアルさを出すには少し本物を入れるのがコツで、この時は冷蔵庫が本物だった。電源をつなぎ、扉を開けると庫内の灯りがつくようにした。流しと食器棚は自作。
 前にはほとんど素舞台でやったこともあるが、それは脚本の要求するところだった。

 
 本校の今年度大会作品の舞台美術は、次の2点を必須条件とした。
 ・ 古い図書館(図書室)であることが一見して分かること。
 ・ 車椅子を押して走り回ったり、バレエで激しく踊るスペースを十分確保すること。(危険回避)
  その時、装置によってSSの当たりが妨げられないようにする。
 (そのため、舞台前面を空け、装置のカードケースも舞台に平行な設置となったのです)
 他に、
 ・ 図書館以外の場所でのエピソードは、舞台前、1サスの下で演じる。
 ・ 照明の変化で場面の違いを見せる。(2サスの有無。吊った電灯に灯が入っていると図書館、消え  ているとその他など)
 ・ 上・下を暗くし、中だけの地明かりにして、逆にガランとした図書館の広さを感じさせる。
 ・ 背景は、開架式書庫とみなし、大黒幕でホリゾントを覆う。
 ・ 後景に高台を設け、暗転中に役者を配して演技させ、何らかの意味を持たせてつなげる。
 などを考えた。
 
 吊りものの電灯は本物の照明器具で、昔の某校舎に下がっていた物である。白熱電球で灯入れができる。舞台空間に高さを持たせる効果もある。
 カードケースは本物で、実際に本校図書館で不要になったものをもらい受けた。これだけで「旧図書館」のイメージは出た。本物の強みである。
 机とイスは「木製」で、いずれも校内で探した一番古そうなものを借用した。倚子は座面だけが緑色のビニール貼り。昔よく見た形のものだ。
 登退場は、図書館の場面では、中4間残して引いた中割幕の奥からだけ。他の場面では袖からを主とする。夢の中での姉の登場シーンは暗い奥の袖から。
 
 以上、8月25日の記事に写真があるので参考に見てください。
 
 
 もし、リアルさを追求するためにパネルを立て、高い壁や柱、窓を作って古い図書館のセットを組んだとしたら、一層、場面転換が難しくなっただろう。地区大会で指摘されたように、あまりに自己主張するセットは、他の場面になることを拒むだろうから。
 それに、ヘタに作ると、逆にリアリティーを損ねる場合が多い。
 また、昨年より減少した部員数で、限られた時間内での仕込み、ばらしをするためには、必要最低限の装置で表現することを考えなければならない。
 そんなこんなの結果で出来た装置なのでした、とさ。