菜の花座第23回公演

 『イーハトーボの劇列車』作、井上ひさし 演出、河原俊雄
 平成22年12月12日 13:00~ 18:00~ 川西町フレンドリープラザ 入場料1000円
 
 昼の部を観劇。入場数60~70。正味3時間25分に及ぶ井上ひさしの大作(こんなに長かったっけ?)。菜の花座は、井上ひさし氏の演劇学校卒業生によって設立された劇団。今回は追悼公演になる。ただし今回の上演は成功したとは言い難い。
 長時間の舞台作りにはそれに応じた力の傾注が必要だ。1時間の芝居に比べ、2時間の芝居を作るには3倍の努力が必要だと思う。その点、この舞台は明らかに準備不足だった。装置や衣装はある程度できている。役者さんはセリフを覚え(大分言い直しがありましたが)、動き仕草を覚えたが、役作りが未完成、不十分だった。台詞の意味が、心情が伝わってこない(芝居が客席に降りてこない、あるいは舞台上にないものは客席に伝わらない)。そして長時間の芝居全体を統御する演出の力が不足していた(というか、稽古が不足していたのか)。
 
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 緞帳は開けたまま、黒い地がすり。ホリゾントは大黒だったり青く染めたり。2つある中割は狭めたり間口いっぱい使ったり。中ほど奥よりのバトンから1間幅の黒寒冷紗を6枚吊り下げ、暗転幕の代わりと紗幕として使っている。裾に角材を通してある。全面に何か木か植物のような模様が黒で描いてある。上手から2間のところが縫い合わされておらず、そこが表~裏の出入り口になっている。上下の舞台面にころがしが3つずつある。これは冒頭と幕切れで、亡くなった農民たちを照らすもの。
 列車のセットは1間幅の4人掛け席が3つ。丸太やソッペで作ってある。網棚も板。窓は空間。この装置は、農民たちの作る芝居ということからの発想。3つのボックスが運び出され(キャスター付き)連結される。列車が動く時は窓の外の人が動く。あるいは、客席の乗客が自分の足で座席を動かし、移動する。これはおもしろかった。
 部屋の場合はパネルが2~3枚立てられる。引き戸がついたものもある。袖からの出入りを隠すため、中割り幕が引かれる。部屋が少し奥なので、ちょっと窮屈な感じになる。
 脚本は最初と最後に農民たちの語り(群読)がある。前に観たこまつ座の舞台では割愛されていたような気がする。この語りが不揃いで自信なげで、まずがっかりしてしまう。以下、その不安は的中してしまった。トシ子入院先での福地との会話シーン、父政次郎との論争シーンなど、何が進行しているのかよく分からず(内容は知っているのですが)、睡魔に負けてしまった。これはテンポが緩いこともあるが、台詞の受けが良くできていないためと思われる。あるいは動きがなさ過ぎる。ために、たまに入る大きな動作が唐突に見えてしまう。
 音響・照明は悪くない。音楽は少なめだった印象がある。汽車の音は乗客が声で出す。これはおもしろい。
 賢治の変化がはっきり見えない、最後に「私はデクノボーでいい」とカツラを投げ上げながら言うが、その言い方があのような明るさでいいのか? 思い残し切符の意味も、農民たちを登場させたわりには明確になっていないように感じる。だから幕切れで拍手が出ない。
 
 厳しいことばかり書きました(ごめんなさい)が、館内は暖房の利きが悪く、観客は皆さん寒がっていた。車椅子のおばあさんもいたのに。自分は招待券をいただいて行ったのだが、入場料を払って、長時間、寒い客席で未消化な芝居を見続けた人たちは辛かったんじゃないでしょうか
 夜の部で改善されることを望みます。