こまつ座第九十六回公演 井上ひさし生誕77フェスティバル'12第2弾

 『雪やこんこん』  井上ひさし、作  鵜山 仁、演出
 3月20日(火) 川西町フレンドリープラザ
 13:35開演 14:45休憩15分 15:00後半 16:05終演
 入場料5500円
 
 緞帳上がると舞台前に紗幕。幕には鏡や名札の絵が描いてある。奥の方、セットの上が大変な吹雪になっている。滝のように流れ落ちる雪煙。紗幕が上がるとそこは湯ノ花温泉劇場の楽屋。
 下手手前が外からの楽屋入り口。人が入ってくると猛烈な雪煙が吹き込む。土間、板の間、畳は12畳(間口3間、奥行き2間)。奥は1段高い物置(衣装行李、提灯、布団など。上段に道具類納めてある)、障子戸4枚(開けると外の雪が見える)。下手上段に小さな神棚(赤い鳥居)。下手奥、のれんの掛かった、母屋の佐藤旅館に続く廊下。上手は舞台の設定。正面、客席に向かうと鏡の設定。実に良くできている。
畳の部分上手には蓄音機、中央に角火鉢、下手に衣桁。
 屋根の上に雪が積もっていて、暗転中吹雪の舞う中、ずんずん積もっていく(雪を描いた幕が上がっていく)。
ラスト、星空になる(黒幕の前。ホリゾントは使っていない)。
 
 田舎(北関東)の温泉旅館に付随して建っている芝居小屋に、東京から中村梅子一座6人がやってくる。しかし大雪の日々、大木戸が壊れたりで初日は明かない。ここに来るまでに一部の役者がトンズラし、残りの役者たちも給金がもらえなければ芝居に出ないと言い出す始末。雪に降り込められた芝居小屋はこの一座の行き詰まった状況を反映している。一座の頭取とこの旅館の番頭(元役者)は旧知の間柄で、一計を案じ、旅館の女将(元役者)と座長が実は生き別れの親子だったという筋書きの芝居をし、女将に金主になってもらえば一座は安泰と役者たちをだます算段。
 なかなか納得しない役者たちをなんとか丸め込もうとする芝居の難行苦行が可笑しい。
 ところが次第に話はズレてきて、役者たちも実はぐるで、芝居よりもストリップをやらせたがる主人から女将を助け出して役者に戻そうという大目的があることが見えてくる。
 
 
大衆演劇の貴重な記録という一面もあると思える作品。ドサ回りに生きた役者たちの生き様と彼らが命がけで生み出した台詞の数々が、流れるように繰り出される。素晴らしい。が、これはある程度年齢のある人でないと楽しめない作品なのではないだろうか。自分も以前に観た記憶はある(雪の吹き込む場面など印象に残っていた)のだが、話の内容はよく覚えていなかった。若くて良さが分からなかったのかも知れない。
 
 役者陣はみなさん達者で台詞回しも役者の動き(立ち回りや女形の動き)も上手だからすぐに芝居に入っていけた。山田まりやが役者で出ているのは初めてみたがうまい。村田雄浩が女形というのが面白い。金内喜久夫と新井康弘は大衆演劇役者の雰囲気を漂わせ、高畑淳子と木村綠子は女の貫禄を見せて圧巻。脚本も役者も演出も舞台美術も良いのだからもう楽しめないわけがない。自分は鵜山仁の演出が好きである。
 
 ラスト、あるつもりの鏡に向かって猛然と化粧する役者たち。観客大喜び、カーテンコール2回。
 
 ちょっと不満を言えば、装置も話も『化粧』の設定に似ているが、話はいやに込み入っていて不自然な感じがするほどである。複雑な筋書きは、観客の読みをはずし、予想外の結末を与えて、どうだと言わんばかりであるが、ちょいとやり過ぎな感じがしないでもない。好みの問題か。終わってみれば人情劇として深く納得されるのも事実である。