1945年8月15日以降における韓国の農地改革(朝鮮半島における土地制度の変遷)その23

 帰属財産(Vested property) 敵産(Enemy property)

 日本の敗戦後、朝鮮半島に残された資産は連合国への戦争賠償のため接収された。これを「帰属財産」とか「敵産」とか言う。これには官有地、私有地も含まれる。

 

 

 帰属財産の性格についての認識の発生

 いわゆる帰属財産の範囲はどこまでで、戦後どのように扱われ処分されたのか。

 以下、『朝鮮総督府終政の記録』(1945)よりの引用。

 引用開始(下線、太字は筆者)

(七、進駐後に於ける米軍の行政活動)

 「日本人警察官を罷免し、米軍憲兵の下に朝鮮人警察官を協力せしめ治安確保に任じたる軍政庁は米軍の布告、命令、声明其の他米軍の報道等に依り一般民衆は克くその趣旨の下に秩序ある生活々動を為すべきものと見込み、且つ、期待せるものの如きも、一般民衆は無知にして、且つ、煽動家の使嗾に乗り易く、従って今日の日本行政権の覆滅を機会として、従前の日本人所有の一切の企業及び財産は何れも過去に於いて朝鮮人を搾取して成立せしめたるものなるを以って、この機に於いて凡て之を朝鮮人に復帰せしめ、日本人は速に母国日本に追い返すべしとの誤りたる観念全鮮に蔓延し、収拾の方法なく混乱の一途を辿れり。/即ち朝鮮人は日本人幹部の下に企業活動を継続せざるは固より、其の会社財産一切の接収並びに従前の日本人の獲得せる経済的利益の返還を迫り、極めて多額なる退職手当を要求するの外、理由の如何を問わず金銭の提供を迫り、此のことの速に解決せざるや、或いは企業設備を破壊し、或いは日本人幹部を彼等の実力支配下に拘束する等の不法事件発生相次ぐと共に、日本人の所有せる日本刀其の他の武器を捜索する為なりと潜(僭?)称して保安隊一味徒党の類は日本人住宅に不法侵入し、或いは又、日本人住宅を接収すると称して居住者に追〇〇(?)を命ずる等論外の事件続発し、更に又、日本人の朝鮮残留に対し、有形無形の圧迫を加えて日本人財産不買同盟宣言等を声明するビラ、ポスター等を撒布貼付するの事件連日増加せり。」

(八、日本人の日本帰還に伴う諸件)

 「終戦前、北緯三十八度以北に於けるソ連軍の進寇に鑑み、其の暴行を予察したる鉄道沿線付近の日鮮人の一部分は取るものも取りあえず南下避難し来りたるも、ソ連兵の突如として元山に上陸し交通を遮断するや、多くは咸興付近に滞留を余儀なくせられ、一部は後日徒歩に依り京城に避難し来れり。/終戦後北鮮の武装解除の担当はソ連との通電を受くるや、直ちに婦女子其の他引揚げを適当とする者の引揚げ方指令せるも、多くの要避難者に周知徹底するを得ず、且つは又、ソ連の侵攻速度に先んずるを得ざりし者あるべく、南北鮮交通遮断に遭遇し、陸路引揚企図も空しく、又、海上交通に依る脱出等も一部分は実施せられたるも、之に多くは期待し難く、大多数の日本人及び婦女子はソ連軍および朝鮮人の虐待下に涙を飲み、一日も速なる救出の手を鶴首しあり。満洲戦災民に付、同様の事情なり。/南鮮地区の日本人に在りても北鮮地帯の進駐軍の暴状を耳にせる者は、相伝えて恐怖し、之に加えて保安隊の言動、窃、強盗の侵入、武器の提供を迫る徒党の家宅侵入等の危険を体験し、又は、身近に感じたる者は、一時も速に日本帰還を焦慮せるが、後に至りて日本人財産は朝鮮人の勤労を搾取せるものなりとの観念、朝鮮人側従業員に浸透するや、日本人企業財産の接収、住宅の侵入、退職手当其の他の金銭不当要求、日本人幹部に対する実力支配に依る自由の拘束等の事件頻発し、加うるに、共産党系一味に於いて日本人の即時總引揚げを迫るビラ宣言等の散布あるや、日本人中飽く迠も朝鮮に残留せんと決めたる者も、斯様に身体上の危害を予測せしめられては、朝鮮滞留は不能事なりと断念せざるを得ざるに至れり。」

 「而して之と相前後して、何等刑事上の重大事由なくして民間有力者及び財産家等は朝鮮人警察官の手に依り続々と警察署等に拘留せらるるの事件発生せるが、同室の朝鮮人被拘留者の言動等依り察して、日本人の朝鮮残留は不能事と察せられたりと語る者あり。即ち彼等下層朝鮮人は「日本人の野郎共は尚朝鮮に居るとすれば、女子供は見付け次第殺すが宜しい。日本人の野郎共は殺して宜しい人間だ。」と放言して、恰も日本人に対し危害を加うることを以て國士を気取るが如き態度なると共に、又、他方心ある親日朝鮮人よりも「日本人はこの際速に帰還を得策とする。」の親切なる提言ある状況なりき。」

 引用終了

 上に引用した中の太字部分のような意識が、今日常識的に語られる「帰属財産」の認識であろう。それは、日本降伏後直ちに朝鮮人の間に広がっていたことがわかる。ただ、これが朝鮮人一般の中に、併合下に於いても継続的に、また一部にでもこのような認識があったのか、あるいは日本敗戦を機に意図的に拡散されたものなのかは確認できない。だが、後にみるように、北朝鮮において進行した共産主義革命の影響が、当時まだ往来可能だった南朝鮮の人民委員会に強い影響を与えたことは考えられる。その指導層の多くは併合時の服役者、すなわち政治犯だった共産主義者社会主義者であっただろうし、彼らはソ連の急速な侵攻と北朝鮮の体制変化を見て、社会主義の実現に期待するところが大きかったと想像される。

 

 

 帰属財産の総額とその内容

 「連合国最高司令部の財産管理処外部財産部(External Assets Division of Civil Property Custodian of SCAP)による日本人財産調査では、日本が1945年8月の時点で北朝鮮において29億7千95万9614ドルを、南朝鮮では22億7千5百(万?)5422ドルにいたる公共財産保有していた。これは、朝鮮における総財産の85%にあたる財産であり、朝鮮における日帝の経済支配力を明らかにする。」(崔 恩瑞「米軍政期の南朝鮮における政教分離政策とキリスト教友好政策―米軍政の宗教政策と教育政策によるプロテスタント信者の急増―」より)

 これによれば、朝鮮半島に残された帰属財産の総額は52億4千5百96万5036ドルになる。しかしこれは「公共財産」についてであって、個人の私有財産は含まれていないように見えるがどうなのだろうか。自分はまだ読んでいないが『帰属財産研究』(李大根2015)によると、日本人の資産は当時の推計で約52億ドル、700億円だというから、ほぼこれで、私有財産含め全部なのだろう。現在の価値では数千億ドルになるそうだ。

 

 後日追記

 『日韓併合の収支決算報告』(青山誠2021)によれば、

 「終戦から間もない頃に日本政府引揚同胞世話会がまとめた「在朝鮮日本人個人財産額調」では、日本人が朝鮮半島に残した個人資産は257億7115万円と報告されている。GHQも、日本政府に在外日本資産についての調査を命じていた。それによれば、朝鮮半島の日本政府や企業、個人の資産をすべて合計すると59億4000万ドルになるという。当時の1ドル=15円のレートでは、日本円にして891億2000万円。現在のGDPは昭和20年当時の501倍、それを当てはめると44兆6419億2000万円という数字になる。/また、平成13年の産経新聞にも、この件に関する記事が掲載された。記事では消費者物価指数などをもとにして、約891億円の日本資産は平成13年時点の貨幣価値にすると16兆9300万円になると推計している。」

 

 日本の2022年度一般会計予算が101兆円だから、それと比較すると莫大な資産であることは間違いない。だが、こういった数値は現在では意味がないとする考え方もある。それは、戦争直後の急激なインフレによって貨幣価値が暴落したこと(日韓両国とも貨幣の切り替えを行っている)、またその後の朝鮮戦争でその資産の7割が消失してしまったこと、日本では占領下での農地解放と超累進課税(財産税)による資産の没収が行われたことを考慮すれば、もはや現在での資産価値を云々することは無意味だろうということである。

 以上後日追記

 

 さて、この財産の管理、処理はどのようになされたか。

 1945年9月25日に、在朝鮮米国陸軍司令官の指令による朝鮮軍政長官アーノルド陸軍少将名での「法令第2号」(敵産に関する件)は以下の通り。

 「第1条 1945年8月8日以降、日本、ドイツ、イタリア、ブルガリアハンガリー、タイ等帝国のその政府やその代理機関、その国民、会社、団体、組合、その他機関と、又はその政府が統合及び規制する団体が一部を所有するか、管理する金、銀、白金、通貨、証券、預金、債券、有価証券、その他財産を売買、取得、移動、支払い、処分、輸入、輸出、その他取扱と権利、権力、特権の行事はこの法令が規定した以外のものは禁止する。(後略)」

 

 また、1945年12月6日に公布された「法令第33号」には以下のようにある。

 「第2条 1945年8月9日以降の日本政府、その機関又はその国民、会社、団体、組合、その政府のその他機関又はその政府が組織あるいは取締団体が所有し管理している金、銀、白金、有価、証券、債券、有価証券及び本軍政庁の管轄する地域内に存在するその他すべての種類の財産及びその収入についての所有権は、1945年9月25日から朝鮮軍政庁が取得しその財産のすべてを所有する。(後略)」

 

 「その財産からの収入」には、小作料も含まれるようだ。南朝鮮に於いて地主―小作制度は維持され、旧日本人所有地からの小作料は米軍政庁に納められるようになるということだろう。(後に触れる北朝鮮の10月10日の決議では、日本人と親日派朝鮮人地主から没収された土地の小作人は、収穫物の30%を地方政府機関に納めることとされたという。)

 

 鶴嶋雪嶺の『〔研究ノート〕南朝鮮においてアメリカ軍政庁が行った土地改革に関する評価について』(「關西大学經濟論集27‐2」1977)によれば、

 「…軍政庁は12月6日付の法令『日本人財産取得に関する件』を公布して旧日本人所有のいっさいの公私財産を接収するとともに、土地所有権が変更なしに維持されること、小作人は無条件に地主に小作料を支払うべきことを宣言し、南朝鮮での植民地的、半封建的土地所有制度を維持する意図を明らかにした。/8・15解放直後から、南朝鮮農民の間では、土地と自由を要求し、小作料不払い運動を展開するなど、広範な農民運動が急速に進展していた。アメリカ軍占領者はこの運動をおさえ、なだめるために、1945年10月5日付の法令『最高小作料決定に関する件』を公布して小作料を収穫高の三分の一に引き下げる命令を出した。(中略)同法令はまた、形式的に小作契約の一方的解除を禁ずることをうたったが、これは『小作権保護』の名のもとに、解放前からの小作制度を維持温存しようとする意図を示したものであった。」とある。

 

 同時期の北朝鮮においても土地改革が進められた。1945年10月10日、共産党創立大会において、「土地問題に関する決議」がなされた。日本人地主と親日的反動地主の土地を没収し、収穫の取り分を「地主3割、小作7割」にするという三・七制が開始されたのだ。

 金日成曰く、「農民の利益を擁護し、彼らを獲得するためには、小作料を減免する戦いから始めて日本帝国主義とその手先どもの土地を没収する戦いを進めながらしだいにすべて地主の土地を没収して農民に分け与える闘争を繰り広げなければなりません。」

 北朝鮮では1946年2月の臨時人民委員会において委員長金日成から土地の国有化と小作制度全廃、無償土地分配が提示され、3月に法制化、実施された。

 

 北朝鮮における土地改革は南よりも急進的だったが、8月15日以降、米軍進駐までの間には、南においても同様な方向に進んでいたようだ。鶴嶋『南朝鮮におけるアメリカ軍政と土地改革』(「關西大学經濟論集26‐6」1977)によれば、

 「アメリカ軍が1945年9月8日に仁川に上陸した時には、すでに、朝鮮人民共和国政府とその地方機関である人民委員会のもとで、厳しい攻撃が、地主制度にたいして行われていた。日本の植民地支配が地主制を基礎にして行われただけに、日本からの解放が、多くの朝鮮人にとっては、地主制からの解放につながるものと思われたからである。朝鮮人民共和国のもとで、人民委員会は、地主を投獄し始めた。これは、小作農から、広い共感をえた。民共和国政府は小作農に対して次のようにつげていた。/地主の土地は、無条件もしくは条件付きで、もしくはごくわずかの補償付きで没収され、この土地が農民に無償で与えられるだろう。/小作制度の機構と合法性が掘り崩され、改革の機運が進行中であった。」という。

 ここでいう「朝鮮人民共和国」は、米軍進駐直前の9月6日、建国準備委員会の呂運亨らが(各地人民委員会の)全国代表者会議において決議した「朝鮮人民共和国臨時組織法」によるものであるから、引用にあるような行動が「共和国」名で組織的にできていたかは疑問であるが、各地の人民委員会がそれぞれ独自に過激な行動をしていたのは事実だろう。しかし、米軍政庁は10月10日、軍政長官アーノルドの声明を出し「朝鮮人民共和国」を否認している。

 

 さて、地主はどんな罪を犯し、どんな法律に従って投獄されたのか? これは法律以前の「革命」であり、地主・資本家は共産主義のいう「人民の敵」「階級の敵」とみなされたのであろう。これは米軍政庁の人々には無法状態と映ったであろう。

 

 

 対日平和条約と戦争賠償

 朝鮮銀行日本銀行は切り離され、日本人の預金は送金できなかった。さらに、帰国に際して持ち帰ることのできる金額は一千円とされた。遡って8月9日以降、日本人の私的預金、不動産は、その所有権を米軍政に奪われた。

 対日平和条約第14条では、連合国は連合国内にある日本国および日本国民の財産を没収して戦争による被害の賠償に充当できると定められている。(最後に対日講和条約本文を載せます。)

 

 日本人地主(大地主、農場所有者)はすべての田畑を失った。しかし、その田畑の耕作に当たっていた小作人は、継続して農作業をしていただろう。あるいは旧地主から安く買い取った場合もあったろう。しかし、それも8月9日以降の売買であれば無効にされた(強奪や不法占拠のような場合も無効にされたのだろうか)。次のハンギョレの記事を参照。

日本の敗戦後、日本人の財産は米軍政に帰属…韓国憲法裁が「合憲」初判断 : 政治•社会 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

 「韓国の憲法裁判所は、日帝強占期(日本の植民地時代)に朝鮮半島において日本人が所有していた財産を、日本の敗戦後に米軍政に帰属させた法令に対して、合憲との決定を下した。解放政局における日本人所有財産の処分問題を扱った憲法裁の初の判断だ。(中略)

  A氏が落札した土地の元の所有者のK氏は、1945年8月10日に在朝鮮日本人からその土地を購入したが、これは米軍政庁法令に反する行為だった。同法令は、1945年8月9日をもって日本人が所有する財産に関する取引はすべて無効とし、日本人が所有・管理していた財産は、すべて米軍政庁に帰属すると規定している。K氏は1945年9月に所有権登記移転を終えているが、8月9日の時点で日本人の所有だったため、取引が禁止される帰属財産だったわけだ。A氏は、米軍政庁の法令が1945年9月25日に公布されたにもかかわらず、8月9日をすべての取り引きの無効の基準とすることは遡及立法禁止に反し、韓国人が日本人から取得した財産まで没収することは過剰禁止原則に反すると主張した。(中略)

  しかし憲法裁は、重大な「公益上の事由」があれば、遡及立法は正当だと判断した。憲法裁は「違法な韓日併合条約により、日本人が朝鮮で蓄積した財産を保全し移譲するという公益は、朝鮮半島内の私有財産を処分し、日本本土に撤収しようとしていた在朝鮮日本人や、彼らから財産を買収した人たちに対する信頼保護要請よりもはるかに重大だ」と説明した。違法に蓄積した財産を還収し、これを大韓民国に返すことの方が、当時日本人や彼らと取引した人々の財産権保護よりも重要だと考えたわけだ。」

 韓国語原文入力:2021-02-03 13:12

 

 そして5年後に始まる朝鮮戦争の間は、北朝鮮の占領下になれば一切が無効とされ、土地売買契約や融資の証文は廃棄され、新たな土地配分がなされた。それがまた南朝鮮支配下にもどった場合、過去の売買や契約は回復されたのか? 回復されたとして、その根拠は何に依ったのか? その当時の状況、実態は「混乱」という言葉以外想像できない。結局は総督府の土地登記に依る他無かっただろう。

 

 大韓民国との交渉

 サンフランシスコ講和条約の署名国でない韓国との間にある、帰属財産の請求権放棄問題については、日韓の国交回復交渉でさんざん論議が繰り返された(13年間)。その経緯は、今は詳しく公表されている。韓国側の主張は、まず韓国併合は違法で無効であり、ひとえに、上海にあった臨時政府は大韓帝国を継承し朝鮮人民を代表しており、韓国は対日戦争に加わった連合国の一員である。即ち大韓民国戦勝国であるという認識を確立したいところから発している。経緯については論文「第1次日韓会談における「旧条約無効問題」について」(藤井賢二)を参照させていただきました。AA112829850150007.pdf (hyogo-u.ac.jp)

 そこから、「敵産」という言葉が使われているのだ。

 韓国の認識では、韓国は支配者日本の敗戦によって独立したのだから、他の植民地、たとえば英国とインドの場合のように、両者合意の下に独立したのとは違う。インドはイギリス連邦に留まっている。そこで宗主国の財産が保護されたのとは比べることができないという考えである。

 しかし、当時の朝鮮人の内何人が臨時政府の存在を知っていて、それを亡命政権と認識し、支持し期待していただろうか。国家としての正統性があるのかも疑問である。

 

 一般に、併合された国が独立した場合、旧併合国の財産はどのように処分されるのが通例であったか。それに比して日本と朝鮮の場合はどうだったか、二つの例をざっと見てみよう。

 

 ポーランドとドイツの関係に似ている面がある。古の大国ポーランドは弱体化すると隣国によって分割され消滅した。第一次大戦後、ベルサイユ条約により独立したが、独ソ不可侵条約の秘密条項に依りまた分割される。第二次大戦後、ソ連圏で独立したが、ソ連の指導により旧東ドイツとの間で請求権放棄協定がなされた。その後統一ドイツ、ポーランド共にEUNATO加盟国となっている現在、ポーランドから、請求権放棄はソ連の圧力によるものだったと賠償請求の声が上がっている。ナチスによる被害には倫理的にも償いが必要だという感じだ。一方ドイツでも、大戦後に旧領地から追放されたドイツ人の財産補償請求の声があるとか。

 

 植民地からの独立では、インドネシアとオランダの関係が参考になるか。300年間の植民地支配から日本軍により解放され、日本軍政下、母国語が公用語になり、末期には独立も約束された。日本敗戦後、一時独立したインドネシア共和国に、旧宗主国は再び戻ってきた(オランダ本国自身、大戦中はドイツから支配されていたわけだが)。オランダの傀儡国(島)を含めた連邦共和国の構想に反発したインドネシアはオランダ軍(始め英印軍)と戦って完全な独立を果たした。オランダの財産は接収されたとか。その後、独立以前の負債は(踏み倒さずに)オランダに償還されたようだ。

 

 

 

 対日講和条約 第14条

 下のサイトから引用させていただきました。

対訳 サンフランシスコ平和条約 (chukai.ne.jp)

Chapter II
第二章
Territory
領域
Article 2
第二条
(a) Japan recognizing the independence of Korea, renounces all right, title and claim to Korea, including the islands of Quelpart, Port Hamilton and Dagelet.
日本国は、朝鮮の独立を承認して、済洲島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する

 

Article 4
第四条
(a) Subject to the provisions of paragraph (b) of this Article, the disposition of property of Japan and of its nationals in the areas referred to in Article 2, and their claims, including debts, against the authorities presently administering such areas and the residents (including juridical persons) thereof, and the disposition in Japan of property of such authorities and residents, and of claims, including debts, of such authorities and residents against Japan and its nationals, shall be the subject of special arrangements between Japan and such authorities.
この条の(b)の規定を留保して、日本国及びその国民の財産で第二条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行つている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。

The property of any of the Allied Powers or its nationals in the areas referred to in Article 2 shall, insofar as this has not already been done, be returned by the administering authority in the condition in which it now exists.
第二条に掲げる地域にある連合国又はその国民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている当局が現状で返還しなければならない。

(The term nationals whenever used in the present Treaty includes juridical persons.)
(国民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。)

(b) Japan recognizes the validity of dispositions of property of Japan and Japanese nationals made by or pursuant to directives of the United States Military Government in any of the areas referred to in Articles 2 and 3.
日本国は、第二条及び第三条に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する

 

Chapter V 第五章

Claims And Property 請求権及び財産
Article 14 第十四条

(a) It is recognized that Japan should pay reparations to the Allied Powers for the damage and suffering caused by it during the war.
日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される

Nevertheless it is also recognized that the resources of Japan are not presently sufficient, if it is to maintain a viable economy, to make complete reparation for all such damage and suffering and at the same time meet its other obligations.
しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。

Therefore,
よつて、

1. Japan will promptly enter into negotiations with Allied Powers so desiring, whose present territories were occupied by Japanese forces and damaged by Japan, with a view to assisting to compensate those countries for the cost of repairing the damage done, by making available the services of the Japanese people in production, salvaging and other work for the Allied Powers in question.
1 日本国は、現在の領域が日本国軍隊によつて占領され、且つ、日本国によつて損害を与えられた連合国が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を当該連合国の利用に供することによつて、与えた損害を修復する費用をこれらの国に補償することに資するために、当該連合国とすみやかに交渉を開始するものとする

Such arrangements shall avoid the imposition of additional liabilities on other Allied Powers, and, where the manufacturing of raw materials is called for, they shall be supplied by the Allied Powers in question, so as not to throw any foreign exchange burden upon Japan.
その取極は、他の連合国に追加負担を課することを避けなければならない。また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外国為替上の負担を日本国に課さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならない。

2. (I) Subject to the provisions of subparagraph (II) below, each of the Allied Powers shall have the right to seize, retain, liquidate or otherwise dispose of all property, rights and interests of (a) Japan and Japanese nationals, (b) persons acting for or on behalf of Japan or Japanese nationals, and (c) entities owned or controlled by Japan or Japanese nationals, which on the first coming into force of the present Treaty were subject to its jurisdiction.
2(I) 次の(II)の規定を留保して、各連合国は、次に掲げるもののすべての財産、権利及び利益でこの条約の最初の効力発生の時にその管轄の下にあるもの差し押え留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。(a)日本国及び日本国民、(b)日本国又は日本国民の代理者又は代行者、並びに(c)日本国又は日本国民が所有し、又は支配した団体

The property, rights and interests specified in this subparagraph shall include those now blocked, vested or in the possession or under the control of enemy property authorities of Allied Powers, which belong to, or were held or managed on behalf of, any of the persons or entities mentioned in (a), (b) or (c) above at the time such assets came under the controls of such authorities.
この(I)に明記する財産、権利及び利益は、現に、封鎖され、若しくは所属を変じており、又は連合国の敵産管理当局の占有若しくは管理に係るもの、これらの資産が当該当局の管理の下におかれた時に前記の(a)、(b)又は(c)に掲げるいずれかの人又は団体に属し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。

(II) The following shall be excepted from the right specified in subparagraph (I) above:
(II) 次のものは、前記の(I)に明記する権利から除く。

(i) property of Japanese natural persons who during the war resided with the permission of the Government concerned in the territory of one of the Allied Powers, other than territory occupied by Japan, except property subjected to restrictions during the war and not released from such restrictions as of the date of the first coming into force of the present Treaty;
(i) 日本国が占領した領域以外の連合国の一国の領域に当該政府の許可を得て戦争中に居住した日本の自然人の財産。但し、戦争中に制限を課され、且つ、この条約の最初の効力発生の日にこの制限を解除されない財産を除く。

(ii) all real property, furniture and fixtures owned by the Government of Japan and used for diplomatic or consular purposes, and all personal furniture and furnishings and other private property not of an investment nature which was normally necessary for the carrying out of diplomatic and consular functions, owned by Japanese diplomatic and consular personnel;
(ii) 日本国政府が所有し、且つ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品並びに日本国の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具及び用具類その他の投資的性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であったもの

(iii) property belonging to religious bodies or private charitable institutions and used exclusively for religious or charitable purposes;
(iii) 宗教団体又は私的慈善団体に属し、且つ、もつぱら宗教又は慈善の目的に使用した財産

(iv) property, rights and interests which have come within its jurisdiction in consequence of the resumption of trade and financial relations subsequent to 2 September 1945, between the country concerned and Japan, except such as have resulted from transactions contrary to the laws of the Allied Power concerned;
(iv) 関係国と日本国との間における千九百四十五年九月二日後の貿易及び金融の関係の再開の結果として日本国の管轄内にはいつた財産、権利及び利益。但し、当該連合国の法律に反する取引から生じたものを除く。

(v) obligations of Japan or Japanese nationals, any right, title or interest in tangible property located in Japan, interests in enterprises organized under the laws of Japan, or any paper evidence thereof; provided that this exception shall only apply to obligations of Japan and its nationals expressed in Japanese currency.
(v) 日本国若しくは日本国民の債務、日本国に所在する有体財産に関する権利、権原若しくは利益、日本国の法律に基いて組織された企業に関する利益又はこれらについての証書。但し、この例外は、日本国の通貨で表示された日本国及びその国民の債務にのみ適用する。

(III) Property referred to in exceptions (i) through (v) above shall be returned subject to reasonable expenses for its preservation and administration.
(III) 前記の例外(i)から(v)までに掲げる財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支払われることを条件として、返還しなければならない。
If any such property has been liquidated the proceeds shall be returned instead.
これらの財産が清算されているときは、代わりに売得金を返還しなければならない。

(IV) The right to seize, retain, liquidate or otherwise dispose of property as provided in subparagraph (I) above shall be exercised in accordance with the laws of the Allied Power concerned, and the owner shall have only such rights as may be given him by those laws.
(IV) 前記の(I)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利は、当該連合国の法律に従つて行使され、所有者は、これらの法律によつて与えられる権利のみを有する。

(V) The Allied Powers agree to deal with Japanese trademarks and literary and artistic property rights on a basis as favorable to Japan as circumstances ruling in each country will permit.
(V) 連合国は、日本の商標並びに文学的及び美術的著作権を各国の一般的事情が許す限り日本国に有利に取り扱うことに同意する。

(b) Except as otherwise provided in the present Treaty, the Allied Powers waive all reparations claims of the Allied Powers, other claims of the Allied Powers and their nationals arising out of any actions taken by Japan and its nationals in the course of the prosecution of the war, and claims of the Allied Powers for direct military costs of occupation.
(b) この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する

 

Article 19
第十九条

(a) Japan waives all claims of Japan and its nationals against the Allied Powers and their nationals arising out of the war or out of actions taken because of the existence of a state of war, and waives all claims arising from the presence, operations or actions of forces or authorities of any of the Allied Powers in Japanese territory prior to the coming into force of the present Treaty.
(a) 日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄し、且つ、この条約の効力発生の前に日本国領域におけるいずれかの連合国の軍隊又は当局の存在、職務遂行又は行動から生じたすべての請求権を放棄する