雑感(冬季オリンピック)

 チャップリンの「ライムライト」。
 落ちぶれた老道化師が、精神的な傷から足が動かせなくなってしまった踊り子を拾い、介抱する。再び踊れるまでに回復した踊り子の初舞台。袖で足がすくんでしまう娘。やっぱり踊れない! 老道化師は一喝する。舞台に行け! そして踊るんだ! 娘は弾かれたように舞台に出て踊りきる。
 だいぶ前に観たので忘れているし、記憶が間違っているのじゃないかとは思うが、こんな場面があったのだ。
 
 ソチ冬季オリンピックの女子フィギュアSP後、この場面を思い出していた。誰か、浅田真央に暖かくも厳しい一喝を与えてくれないか、浅田の本来の力が目覚めないか、切に望んでいたのだ。
 でも、日本はもちろん世界中のスケートフアンが彼女にメッセージを寄せていた。佐藤コーチの存在も、チャップリン演ずる老道化師に劣らないものだったのだろう。
 
 まさに劇的な結果が訪れた。リアルタイムに観た者の多くが浅田のその演技に感動した。何の利害関係もない(世界中の)人たちが、ただただ感涙に浸るという奇跡的な状況。
 
 メダルという結果は残せなかったけれど、フィギュアスケートの歴史に残る名演技だったことは確かだろう。私たちは彼女の勇気を誇りに思って良い。ある種の感動には勝敗は無縁だ、と誰かが言っていたがまさにそうなのだと納得する。
 
 
 選手以外のところで金・銀の判定を巡る醜い争いが起きそうな様子だが、幸か不幸か浅田はそんなところにまきこまれないで良かったとも思う。天の配剤か。