山形演劇鑑賞会第327回例会

 10月19日(水) 18:30過ぎ開演 21:00ころ終演(途中休憩15分) 
 山形市民会館台ホール 入場数700くらい?(未確認)
 加藤健一事務所
 音楽劇『詩人の恋(Old Wicked song)』 
 作、ジョン・マランス 訳、小田島恒志 訳詞、岩谷時子 演出、久世龍之介
 出演、加藤健一 畠中 洋(上山市出身、日大山形高校卒業)
 
 17時過ぎからの急な会議で、職場を出たのが18:10ころ。急ぎ足で会場に向かうが、着いたときにはすでに席詰め(横詰め)されていた。しかし、今回の席は19列と後ろの席だったので、ほぼ同じ席に座ることができた。
 
 緞帳が開くと舞台一杯の古く重厚な洋室。大学の315号研究室? というか、ピアノのあるレッスン室? 緩く開いたハの字型のセット(舞台美術は石井強司)。背景は黒幕だが、最後の場になって青い空と雲のバックになる。下手に大きな高い窓が2つ。灯りが差し込む。壁は大きくU型に切れていて背景(暗灰色抽象的)が見える。奥の角には柱時計。これは10年前から5時35分くらいで止まっている。上手壁に入り口のドアに通じる部分(石膏の胸像が飾ってある)と奥の台所(コンロでコーヒーを沸かしている)? やバスルームに続く部分が空いている。間の壁にクリムトの絵。下手にライティングデスク(豚の貯金箱がある)、電話、グランドピアノ。中央にソファ、テーブル。上手に小さなテーブルと椅子2脚。カーペットが敷いてある。舞台端に小さなフットライトが2本あって、2人が怨み・悲しみを棺に入れて海底に葬る場面を照らす。
 お話は、1986年のウイーン。(「詩人の恋」はハイネの詩にシューマンが曲をつけたものの題名。)若いアメリカ人ピアニストと老声楽教授の数ヶ月のレッスン。2人が実はユダヤ人であるということ、ダッハウがウイーンの近くにあるということ、1986年に前国連事務総長ワルトハイム(戦争中ナチスであった)がオーストリア大統領に選出されたことがポイントになっている。反ユダヤ主義への批判が強い。作者がユダヤ人なのかどうかは不明。しかし、そんな政治的なテーマよりも、ピアニストがこんな変な教授につくことになったいきさつ、老教授の背負った過去(前半の流れだとてっきり彼は元ナチスだと思っていたが後半に逆転される)の苦悩が描かれる。深い悲しみの上に強い喜びがある。深い苦悩を持つ人間(民族)が、より素晴らしい感動(芸術)を持てるのだという主張。
 
 詩、歌、音楽の関連。同じ歌詞を歌うにしても、深い理解の上で感情を込めて歌うと全然違う歌になる、ということを実際にやってみせる。役者が本格的に声楽的に歌い、ピアノを弾く。役者の力を感じる。加藤さん62歳だけどいい声だ。
歌の最高潮の部分だけマイクで拾っているように感じたが、ほぼすべて肉声で台詞は良く聞こえた。
 少しも飽きさせず、時間も短く感じた。2度のアンコール、花束贈呈の後の2人のスピーチで、大震災後の東北の人に観劇してもらえる喜びを語っていた。