第6回春季全国高等学校演劇研究大会 3

 『修学旅行』 作、畑澤聖悟  島根県立安来高校
 
 ほぼ、全国大会で最優秀を獲得した時のオリジナルに沿った上演。旅館のおばあさんと番頭は出てこない。カキザキはソフト部ではなく剣道部になっていて竹刀(ノミヤから取り上げられてからは木刀)を振り回し、新体操部のシャトミは本当にロープや棍棒を持って新体操の技を繰り出していた。ラストの国づくしに「日本」が出てくるのが独自か。日本の「平和」をありがたく思える感じだった。会場内の観客ほぼ全員(作者畑澤先生含む)がこの作品を熟知しているだろう中で、ラストシーンはしっかりと受け止められていたと思う。
 枕も盛大に飛び、バトンからも大量に落下してきた。間が小気味よく、細かい仕草で笑いを取るのも良くできている。「世界の真ん中でひとりぼっち!」の時の照明トップはなかったと思う。
 少ない生徒数の学校でありながら、演劇部にこの作品に最適なキャストがそろったのは奇跡的かも知れない。
 名作は、誰が演じても、台本の要求するところを外さなければ確実な成果を得られるという見本かも知れない。全国大会最優秀作品として広く知られ、そのビデオも簡単に観られるだろう。それを見て、より効果的な見せ方、笑わせ方が工夫できるのは後発の利点。
 しかし、これはオリジナルのビデオがなくても可能なことだ。名作『トシドンの放課後』のオリジナル上演を観た人はまずいないだろうが、台本を正しく理解しさえすれば、台本の力によって舞台はできあがる。そうして得られた成果は全国大会にまで上がってくる。
 
 自分は以前、この作品を沖縄で上演する気にはなれないと書いた(実際は自分にそんな機会はないのだから無意味なのだが)。今でもそう思う。だが、やや世界情勢が変化し、ゴーヤの間の5人の仲違いが国際紛争カリカチュアになる構図が弱まったような気がする(今なら南シナ海の領土・領海争いの方が単純明快でしっくりくるかもしれない)。そうしてみると、修学旅行の一夜の大騒ぎ自体のおもしろさが前面に出てきて、沖縄戦の悲惨に対する無関心も、他愛ない高校生の実景として、自分の中で引っ掛かり無く受け取れるような感じがしてきている。
 そもそも沖縄戦の問題や民族・宗教対立の問題を正面から扱った作品ではない(あるいはそれに対する無関心そのものを問題にしているわけでもない)のだから、全国で何度も何度も上演されながら、あるべき所に落ち着いてきているのかもしれない。
 
 自分の近辺でも最近、東根工業高校、楯岡高校、山形北高校が上演しているのを観た。紛れもなく高校演劇のスタンダード・ナンバーと言えよう。
 そろそろどこか、この台本をまったく違った斬新な演出で演じてみせる部はないだろうか、などと夢想する。