思い出すこと

 井上ひさし作品を高校生が演じるとき、「11ぴきのねこ」はよくやると思う。「父と暮らせば」は全国大会まで出たし、今年もどこかでやっているようだ。
 
 自分の部では15年くらい前(前々任校)、「頭痛 肩こり 樋口一葉」をやったことがある。これは長い。休憩を入れた。(この休憩時間中、観客に帰られたくなくて客電を半灯にしておこうとしたら会館スタッフにさんざん怒られた。観客が立って動くのに危険だということであった。どうもすみませんでした。)
 役者は日本髪を結って着物を何枚か着替える。カツラではなく、朝、パーマ屋さんに行って結ってもらい、その頭で会館へ移動。(この協力的なパーマ屋さんを探しあてるのが大変だった。ありがとうございました。ろくにお金も払わずにすみませんでした。もう不義理ばかりしてきてます。)
 仏壇は本物を借りた。同僚の先生の実家が仏壇屋だったのだ。ラストシーンで大きな風呂敷にこれを包み、生徒が背負って歩くのだ。装置は全体にポータブルステージで高くして薄縁を敷き、壁はパネルだが、上手の部屋に押し入れを作った。ふすまを開けると2段になっていて、中に布団が入っている。石油ランプを2個借りてきて吊る(灯は入らない)。上手の庭に井戸。最初、生徒が井戸枠を作ったが、女子校の悲しいところで、運ぼうとするとバラバラになった。幽霊花蛍役の子がそこから登場する。
 一葉の机だの洗い張りの板だのを借りてきたり、役者は膨大な台詞と歌を覚えなければならず、いや大変な労力だった。あんまり大変で、終演後部室に帰ると舞台監督がへなへなと倒れてしまったくらいだ(顧問が生徒の健康に配慮しないでどうする、と今は思う)。当時は大会参加作品なんかより、この定期公演を重視していて、とにかくこれがその年代(学年)の最高作となるようにと必死に考えていたものだ。自分もまだ若かったなあ。
 
 幕が下りて片付けようとしていると、校長が舞台にやってきて、大声で「よくやった!」と生徒たちを褒めたものだ。「生徒はプロの公演をビデオで見たのか」と聞かれたが、生徒は一切見ていなかった。
 
 このときの舞台映像を載せたいが、スチル写真がなく、ナショナルの規格のビデオテープで撮影してあるので今は再生できない。暇があったら何とかして載せてみようと思う。自画自賛になるがなかなか良くできた舞台で、「明治座で芝居を観ているようでした」なんてアンケートがあったりした。
 この作品は6人の女性で演じるが、定期公演では最初の子供たちを別の役者が演じた。