『JOY TO THE WORLD~上田美和、作「トシドンの放課後」より』④

 県大会でいただいた講評。

 公家義徳 氏
 県大会お疲れ様でした。最初にすべての学校へのアドバイスとして同じことを書きます。
 講評の席でもお話ししたと思いますが、芝居は“客席にいるお客さんとの対話”が重要です。お客さんの存在を忘れてしまうと、どうしても演技が舞台上だけのものになってしまいます。どうか“相手役”と“客席”を同時に意識することを忘れないでください。舞台上で演技をするということは、お客さんにプレゼントを手渡す行為と一緒なのです。みなさんが長い間稽古してきたその成果(言葉や想い)を届けなければならない相手は観客席にいます。客席にいるたくさんの誰かとじぶんとの距離を意識しましょう。乱暴な言い方をすれば、このことを理解できれば芝居は半分できたも同然なのです。言葉や想いを手渡す相手は相手役でありお客さんでもあることをどうか忘れないでください。

 みなさん県大会お疲れ様でした。
 高校演劇に携わる人ならみんなが知っている(と言ってもいい)『トシドンの放課後』の脚色上演、非常に意欲的な作品だったと思います。みなさんの学校での稽古風景をのぞき見するような、そんなワクワク感を味わえる芝居でした。劇場に足を運んでくれたお客さんも、きっとそのようなことを感じながらみなさんの芝居を観たのではないでしょうか。ぼく自身も演出をしていますから、じぶんの役者に対するダメの出し方などを振り返りながら、時々恥ずかしい気持ちにもなり、他のお客さんとはおそらくまた違った見方で楽しく拝見しました。
 講評の時にもお話ししましたが、ヨーロッパでは古典の名作作品を新しく現代の作品として創り変えるという手法はとても一般的な芝居の創り方です。みんなが知っている作品をどのように創り変えるのか、みんなが知っている名作だからこそ、その興味は尽きることがありません。
 みなさんの芝居を観た後でぼくはこの脚本を読みました。そしてみなさんの上演した芝居を想い出しながら脚本を読んでいくと、とても不思議な話ですが、みなさんの芝居とはまた異なった作品世界をぼくはイメージしたのです。
 脚本を間違って読むことを“誤読”といいます。ぼくはみなさんのこの脚本を誤読してみました。そうしたらまた別の作品世界が見えてきたのです。ぼくはこの作品をコメディーとして読みました。脚本を読みながら、みなさんがこの作品をコメディーとして上演している姿を思い浮かべました。もしかしたらそういう上演の仕方もあったのではないかと考えました。もちろんそれはこの作品『JOY TO THE WORLD』の作品世界に一生懸命向き合い作品を創り出したみなさんの姿があってこその誤読です。『トシドンの放課後』という作品からあるひとつの答えを導き出そうというみなさんのアイデアが、逆に作品創りの可能性をぼくたちに指し示したのだと思います。これからもいろんなチャレンジをして、自由に芝居創りを楽しんでください。
 非常におもしろい試みの、ぼくにとっては刺激的な作品でした。
 これからもがんばってください


 皆川あゆみ 氏
 私は「トシドンの放課後」の内容を知らない状態で、観劇させていただきました。「トシドンの放課後」を上演する高校生達が、稽古をしながら台本解釈に試行錯誤しているのを観て、進行とともにどんな作品なのか、徐々に理解していきました。
 「トシドンの放課後」を知らなくても楽しめる作品だと思いましたが、反面、稽古シーンで稽古する場面を飛ばし飛ばしで稽古しているのが気になりました。「トシドンの放課後」を知らない人にも分かる様にとの意図もあるかと思いますが、この作品に関して、何故そのシーンを稽古するのかがわからない。演劇を知らない人が観たら、そういうもんだと理解するかもしれませんが、客席にはいろんなお客さんがいます。もちろん舞台経験者も観ることは多々あると思います。そのシーンを稽古する意図がなければ、ぶつ切りの稽古に違和感が残ります。かと言って、全部説明していたら60分では無理なのは理解できるので、悩ましいとこではありますね。
 もう一つ、違和感を感じたことがあります。それは、稽古シーンの温度差です。稽古のシーンで演出や舞台監督が言っていることや、やってることは、見ているとかなり熱い思いで「トシドンの放課後」に取り組んでいるのに、実際には淡々と粛々と稽古を進めている印象を持ちました。この稽古シーンで「トシドンの放課後」を上演することに対しての熱意や葛藤が表現されれば、登場人物の実存シーンであるオープニングとエンディングは、もっともっと生きてくる。もしかしたら稽古シーンで熱意や葛藤が表現されれば、「このシーンの稽古をやる」「あのシーンの稽古をやる」の意図が浮かんでくるかもしれません。
 「トシドンの放課後」という作品が好きでこの作品が出来上がった様に感じます。個人的には思い入れを持って作った作品は多少説明不足でも、面白い作品になると信じております。思い入れを全面に出しちゃって、もっともっと楽しんでお芝居を作っていってほしいと思います。

(もうお一方の分は後日)