平成28年度置賜地区高校演劇春季合同発表会(続)

 2日目の会津地区2校の発表


 会津の2校を観劇するのは3年目になるが、今年はかなり強烈だった。会津若松ザベリオ学園の重さ、大沼のまさに全国大会に匹敵するレベルの高さ。迎える置賜地区は、じぶんたちの作品のレベルをもっと上げなければ失礼と感じるくらいだった。
 県内の新庄、そして酒田から観に来た顧問、生徒部員の受けたものも大きいだろう。だが、もっともっと多くの県内高校演劇関係者が観劇に来るべきだと思う。(まあ東北大会に出場し、すでに観ている部はともかくとして)
 
 会津若松ザベリオ学園さん

 最後自己破滅というか、虚無というかそんな所に行き着いてしまう内容は重くて暗く、救いが欲しい気持ちであった。

 マペット(指人形)のように自分の都合の良いことしか言わない、しない相手なんか現実には居ない。引きこもりの愛にはそれが分からないのか。役者は皆さん動きが柔らかく、よく訓練されているようだった。

 大沼高校さん
 「シュレーディンガーの猫」「Paradise」「千羽の鶴と神隠し」と観てきたが、一番心動かされたのは今回の作品だった。理ではなく情において圧倒されるものだった。直接何にというわけでなく、観ているうちに次第に心に湧く物があり、涙がこぼれた。
 よろずやマリー、古道具屋と称するゴミ屋敷の老女。よくある話かと思うが、それが東日本大震災と関わってくる。拾って来る物は立ち入り禁止区域に残された思い出のある物ばかり。今はイノシシの天下になっている町から、限られた時間内に探してくるのだ。だから、それらはゴミではないし、絶対売らない物である。
 夜、懐中電灯の灯りだけで演じられる場面は、名取北高校「好きにならずにはいられない」の津波の夜の場面を思い起こさせるが、これは6年後の話であり、探すのは父と妹ではなく思い出であり、引き戻そうとするのは母ではなく震災の被害を受けていない他人である。
 入院したマリーに替わって、罵声を浴びせる隣人達に怒鳴り返すのはダメ子のサツキである。サツキは6年前、避難所の体育館でマリー先生に会っている。サツキはマリーと同じように、「これはみんなゴミじゃないんだ! 何も知らないくせに! 何も知らないくせに!」と叫ぶが、そう叱責されるのは客席にいる我々である。まっすぐに見つめるサツキ(部長の藤田さん)の視線を我々は受け止めなければならない。心の奥底から悲しみが湧き上がってくるのを感じる。「帰れ!」「放射能がうつる」等の罵声は客席の周囲から放たれる。観客を加害者の位置に置き、被害者の視線を受け止めさせる工夫であろう。
 ただ、打ちのめされる観客を、そして怒り苦悩する被害者をどのように救うのか。その部分が明確でないために、終幕、ファンタジックな場面で収めようとしても、我々は感動の拍手を送ることが出来ない。サツキの言動がマリーを救ったようだが、どの行動、どの台詞がきっかけだったのか、今ひとつ分からなかったのは自分の所為か?
 壊れていたスタンドや街灯、そしてルームライトが次々に点灯していくラストシーン。確かにきれいではあるが、最初の一つが点いた瞬間に最後までが見通せてしまうという難点もある。前述したように、打ちのめされたままの観客はその流れになかなか乗っていけない。
 マリーが「ダーリンを死なせて」と言うが、その難問をサツキはどうクリアーしたのだったか? 自分は見逃したか、聞き逃したのかも知れない。
 黒電話が一つの小道具として効いているのだが、その掛け方が今の子には分からないということ、電話線が繋がっていないということを、マリーが倒れ救急車を呼ぶという場面で一気に出すか、伏線として出しておくか。どちらがより効果的か。亡くなった人と電話機を介して会話するというパターンはよく使われる。だからこそもっと新鮮な使い方を追求したい。
 小説的表現(言語的=台詞、理性中心)から脱皮し、より演劇的表現(感覚的=感情中心)へと向かう試みがなされたのかとも感じた。だとすればそれは成功しているのだろう。ただ、より緊密で斬新な構成にしないと、いろんな芝居を見慣れた者にはありふれた感じを覚えさせたかも知れない。(適当なことを書いて済みません)
 よろずやの舞台美術。店主の定位置が下手端になっているが、中央寄りの上手ではどうか。出入り口が下手。東西に壁を作ってそこに戸を設けても良いのでは。電話をする、レコードをかけるなどの動作を、もっと中央でやってほしいと感じたのは自分だけか。ルームライトが奇蹟の灯火として中央に鎮座しているからなあ。棚などはもう少し高くして天井に届くくらいの感じで、2階の階段からマリーが下りてくるなんてのもありか。

 観た当初2日くらい何も感想を書けなかった。数日経ってメモした物を元に、今、記しているのだが、それほど衝撃は強かったということだろう。役者はマリー役の子を始め、皆さん上手かった。上にダメ出しのようなことを書きましたが、個人的な感想にすぎないので、お気になさらずに。