パンズラビリンス

 ダーク・ファンタジーとか。数年前の映画だが初めて観た。
 スペイン内戦後のフランコ政権下、反政府ゲリラと軍の戦い、凄惨な拷問という悪夢のような現実が描かれる一方、地下王国の王女が地上に出て自分を失い、人間世界に生きているが、いつか試練を経て王女に戻り、王国に帰る日が来るという夢想がリアルに描かれる。リアリズムとファンタジーの「共存」と言おうか、「キメラ」と言おうか。 
 
 現実逃避の物語と見ればファンタジー部分は少女の夢想であり、そこに登場する怪物たちは現実の不安や恐怖の反映となるだろう。その中心は母の再婚相手のサディスティックな大尉である。(カピタンと呼ばれるが、陸軍では大尉、海軍では大佐か)
 怪物の造形はかなり不気味だ。
 
 王女を探し、候補者に試練を与えるパンの存在。試練では恐怖の克服と自制心の発揮が要求される。パンは少女に助言を与えるが、それは謎めいていて不確かである。少女は失敗する。パンは一度は彼女を見放すが、敗者復活の道が与えられる。そのためには大尉の子、母が命と引き替えに産んだばかりの弟を盗み出さなければならない。パンは、地下王国に帰る道を開くためには汚れなき純真な者の血(すなわち嬰児の血)が必要だと言う。ここは「杜子春」的な試練になる。
 はたして現実の悲劇なのかファンタジーの勝利なのか。不思議な気持ちになる作品だ。