東北幻野第27回演劇公演

『TREASURE』 作、鈴木紀臣 演出、織江尚史
平成22年11月21日(日)14時・18時開演(14時の部を観劇)
新庄市民文化会館大ホール  上演時間、約1時間55分 
 
 結成20周年という、歴史を残してきた劇団(芸術集団?)。映像や舞踏にも関わってきている。主宰の大原蛍氏は高校演劇にも関わっておられたが、現在は後進に譲り、若手が脚本・演出を担当し、主体となっているという感じである。
 このお芝居、かなり気張って観たためか、あまり楽しめなかった。感想もかなり辛口で長くなってしまった。
 
 開演前から緞帳が上がっていて舞台が見える。全面が黒い地がすり。框中央のところだけ2間幅の白い布が掛けてあるが、これは最初に池として、後に寝具として使われる。中央に2間幅の高台、その上に1間半の高台。階段で上に上る。ツラに、朱の地色に金の線模様が入ったけこみが貼ってある。これは後に外され、茶色のけこみとなる。背景は大黒幕。タッパいっぱいの高さの竹が2本立っていて、ランタンが2~3個ずつ掛けてある。これは後に点灯する。竹にはほぼ常時仄青い照明が当てられ、これが暗転灯りにもなる。中割幕がせめてあって、その前、下手が喫茶店(カウンターなど)のセット。上手が自宅のセット。中央では古代中国の夏王朝の最後の王、桀とその妻末喜(ばっき)との酒池肉林の宴を演じる。それぞれは照明で区切られる。しかし、幕切れ近くに、下手の喫茶店に来る客たちが、暗い上手袖から歩いて登場したので違和感を感じた。
 良く作ってあるが、この三つのセット以外にも中央前に設定される場面があるために転換を必要とし、暗転の回数が多く、時間が長くなった。これは芝居への集中を削ぐものだった。もっと場面を整理すると良いのではないか。暗転について言えば、食事をする間の時間表現など、映像作品ではないのだから暗転する必要はないだろう。
 衣装・小道具は十分に用意されている。ただ自宅の家具は、ベッドの表現があれでいいのなら、テーブル・椅子なども、もっと簡略化して良いのではないかと思った。
 
 照明が、芝居の内容とは不釣り合いなくらいに凝っている。多くの灯体を、さまざまな方向から当てている。スモークを炊いて光跡を見せる。幻想的な場面には効果的である。ただ、SSや斜めからの照明がどのような影を作り、それが装置や役者にかかるかどうかを確認しておくことが必要だろう。
 暗転中の音楽は良かった。音響はやや過剰か。登場の際にだけ使う音など不要ではないか。
 
 ストーリーは、一つはあじさい市で三代続く喫茶店シルクを経営する若夫婦(健一郎と夏美)が再開発に抵抗する話。一つはあじさい市の再開発を行う市長とその腹心の部下が、実はあじさい市に埋められている夏王朝の秘宝を掘り出し一攫千金を夢見ているという話。そして、末喜の翡翠の首飾りが、秘宝を収めた箱を開く鍵になっているのだが、これが夏美に誕生日プレゼントとして贈られる。その首飾りには末喜の残留思念が宿っていて、夏美は末喜の夢を見るようになる。末喜は現実の中にも登場して夏美に関わり、彼女の危機を救ったりする。
 末喜は夏王朝の滅亡に際し東の倭国に逃げ、現在のあじさい市のあたりに住み着いたのだった。現地の倭人と打ち解けた末喜は、この地で亡くなったのだった。発掘された秘宝の箱に入っていたのは、大量の蓮の種であった。これは、池が酒で満たされたため蓮が無くなるのを惜しんで末喜が持っていた数粒の種から増えたものである。稀代の悪女とされる末喜は、実は慈悲深い王妃で、余った酒や肉を飢えた者たちに施していたという。おもしろい発想である。
 蓮の花言葉は純粋で清らかという意味だと。夏美と末喜の純粋さ・清らかさを示唆している。芝居冒頭と幕切れで蓮の花にスポットが当たることが、そのテーマを示しているのだろう。
 これらの要素の関わりがはっきりとしてくるのが遅いため、なかなか話に引き込まれなかった。最初から末喜が夏美の前に登場するなどの方法をとるほうが良かったか。もっと言えば、夏王朝の場面を出す必要もないのかもしれない。あじさい市の市民感情の描写が足りないのか、再開発の問題が浮き上がってこないのが惜しい。もっと新庄市民に密着すれば、深刻な問題なのだろうが。
 
 演出は、たとえばコーヒーを噴く、それは熱いのか不味いのか、何なのかわからない。泣く、なぜ泣くのか唐突でわからない(考えればわかるが、直接に感じ取れない)。二人が話している。その距離感があいまいである。演出すべきところが見過ごされているように感じた。主人公たる健一郎と夏美の会話シーンが作り込まれていないため、二人への感情移入が上手くいかない。そのために芝居の骨格が弱くなっているのだろうと思われる。SFファンタジーといえども、人物描写には最低限度のリアリティーが必要であろう。
 市長たちは秘宝を狙っているが、そもそも地元に夏王朝の遺跡があるのだったら、それだけで貴重な観光資源であり、地域振興になるのではないか?  
 総じて登場人物たちの言動が類型的で、全体的にテンポが緩い。2時間弱の上演時間だが、1時間20分くらいでできる内容だと思う。それほど深くない内容を時間をかけて演じても面白くはならない。テンポ良くどんどん進めた方が面白く観られるはずだ。