第49回山形県高等学校演劇合同発表会

 2022年10月28日(金)~30日(日)、山形市の東ソーアリーナ(旧シベールアリーナ)にて開催された。審査員は、西垣耕造(東京演劇集団風 俳優・演出)、佐藤雅通(劇作家協会会員 元福島県演劇部顧問)、田中惠子(元庄内地区演劇部顧問)。

 入場者は、新型コロナの流行状況により、参加学校関係者、演劇部OB・OG、部員家族などに限られた。

 この会場は井上ひさしとシベールの熊谷社長(二人とも故人)が夢を込めて作ったもので、キャパは500席程度だが、今回のように入場制限がある状況では十分に適した大きさだった。1000席以上、舞台間口10間とかの大ホールでは散漫になっただろう芝居も引き締まっていた(役者の出入りにも無駄な時間がかからない)。また役者の声がとても良く通り、聞こえないことはなかった(ただ、ごく一部だが、音楽との重なりで聞きにくい時はあった)。ホール内の暗転時の暗さも良かった(壁などが黒い)。

 新型コロナ禍が高校の部活動に及ぼした影響は多大だが、今回の演劇大会を見る限りでは、大きなレベルダウンは見られず、かえって集中を増した面も感じられた。

 

 審査の結果は以下の通り。(いずれも上演順)

 最優秀

  置賜農業『テーマの行方』 作、成澤久美(顧問)

  鶴岡中央『明日は救世主』 作、木村麻由子(顧問) 

 優秀第一席

  高畠『現代数学概論』 作、伊藤絵梨/潤色、高畠高演劇部

 優秀

  酒田東『color palette』 作、木村麻由子/潤色、酒田東高演劇部

  新庄南『Take a Chance!』 作、木戸恵美(顧問)

  山形西『屋上プレリュード』 作、岡崎未羽(生徒)+愉快で可笑しな仲間たち

 優良

  山形工業『耽溺』 作、後藤咲輝(生徒)

  山形中央『生まれ変わる場所』 作、本間正史(顧問)

  天童『音楽劇「雨あがり」』 原作、清野和男/脚色、天童高演劇部

  山形東『ユメの邑』 作、村岡亜美(生徒)・山形東高演劇部

 創作脚本奨励賞

  山形西『屋上プレリュード』

 

 最優秀、優秀第1席については、東北大会(予定は2023年1月20~22日、いわき市)に参加する。最優秀はいずれも、受賞について異論の無い舞台だったと思う。

 顧問作の上演では、成澤久美、木村麻由子、木戸恵美らが手腕を見せた。特に置農成澤の芝居は格段に洗練のあとが見られた。清野和男、本間正史は全国大会出場経験のあるベテラン。今回はそれぞれ歌やダンスを織り込んでいたが、それが演技とやや馴染んでいない感があるのが残念だった。

 

 

 以下、いくつかの高校の上演に対して感想を書きますが、かなり偏った見方をしているかも知れませんし、誤認している部分もあるかも知れません。失礼がありましたらご容赦ください。コメントいただければ修正、訂正します。

 

 天童高の上演は、離婚のショックでアル中になった母親を気遣う息子の話。生活に窮し、母親に強要されて、老人ホームにいる祖母の財布を盗ってしまう。彼を救うのは同じような境遇の女の子。(天童高に限らず、このようなヤング・ケアラー絡みの話が目立った。新庄南高の場合も似ていて、両親不在の兄弟を「子供食堂」が救う。テーマとしては他にLGBTQ関係も多かった)

 黒い山台(中にピアノの演奏者がいる)と両側の階段、背景黒幕の星(天の河)という装置は、かつて熊本大会で上演された『七夕の夜』を思い出させた。当時はコロスが童謡などを歌いながら転換していたが、今回は自作だろう歌を歌っていた。「音楽劇」と銘打つだけあって、歌はかなり練習したと感じた。が、ミュージカル的歌い方でないため、今一つ演技に同調し、劇を盛り上げるには至らなかったのではないか。

 山形中央高の上演作は、四半世紀以上前に山形北高の定期公演で上演した作品が元であろう。その時は『クリス・レビン物語』といったと思う。主人公を捨てた母親との断ちがたい絆が強く出されていたと記憶する。今回はより「反戦」の方に傾いた感じだった。ベトナム戦争以後のアメリカ現代史を俯瞰するような壮大な構想で、60分の大会では不十分だったろう。役者がダンスを踊るシーンがポイントで、皆かなり上手いのだが、「怒り」や感情の爆発を表現するには少し弱かったのではないか。

 山形西高はオーソドックスに、場面を学校の屋上に固定して進行した。屋上の柵と出入り口(これがうまく汚してあり、またドアの開閉がスムースで、開け閉てしても揺れることもなかった)をセットしている。あとはベンチが一つ。女子校だが双子の兄弟を主人公にしている。かなり違和感を消していた。生徒創作だが破綻無く、素直に観ることができた。ただ、兄弟の心理が、「女性の想像する兄弟関係」になっていたかもしれない。

 

 皆さん、たいへんお疲れ様でした。