二兎社公演41 ザ・空気(ネタバレあり)

 平成29年3月5日(日) 14:00開演 15:45終演  於、シベールアリーナ  入場料5000円
 『ザ・空気』 作・演出、永井 愛

 田中哲司木場勝己若村麻由美が出演するので観に行った。
 以下、最初からネタバレになりますので、これからご覧になる方は読まないでください。

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 舞台美術は大田創という方。
 舞台中央辺りで上下に開いたパネルで一室が作ってある。モノトーンで、いくつかのドアと一つの窓がある。ドアの上には、明かりが付いて非常階段やエレベーターのピクトグラムが出る。壁に電話機がはめ込んである。これらが入れ替わり、陽の差し込み方が変わることで同じビルの別の階の別の部屋に替わる(これは暗転を挟まずに行われたりする)。20階建ての放送局(民放)という設定である。窓からは外の非常階段が見える。(最後に、中央の高いパネルが開いて非常階段の全貌が見えるが、数階分が作ってある。…人は上り下りできないが。)9階の会議室は特別な部屋である。 
 上下のパネルの上方に人が立って、舞台上(室内)の人と電話で話す場面がある。背景は黒幕。
 部屋にはいくつかのボックスが置いてあるが、部屋の壁の角度に合わせて菱形をしているのがおもしろかった。斜め上から見たのではっきりわかるのだが、正面からだとそうは見えないかも知れない。

 役者の上手さはよく分かる。木場さんの声はとても魅力的だ。丹下や花田のキャラクターもよく出ている。

 以下あらすじ。(ネタバレ)
 報道番組の本番前、編集長今村が、アンカー大雲からの台本変更要求を受けて苛立っているところから始まる。取材に当たった女性キャスター来宮は断固反対する。
 アンカーは水谷から今の大雲に変わったのだが、水谷は局内(9階会議室)で首吊り自殺したのだ。その理由は、自身の思うとおりの番組が作れなくなったことらしい。その遺志?を今村は引き継ごうとしている。
 やがて大雲が現れ、番組の政治的公平性の観点から3カ所だけ変えようということを説明するが、2人の抵抗を受ける。そうこうするうちに、脅迫めいた電話が入る。放送の公正公平を守る会とか名乗る。放送予告のタイトルから、番組が報道への権力の介入を問題視するものとして忠告してきたのだ。アンカー大雲は非常に気にするが、編集長今村らは強気である。
 総務大臣の停波発言から始め、ニュースキャスター達の懸念、ドイツでの報道の自由なあり方を伝えようとするものなのだが、大雲は3カ所の修正の代わりに、ドイツでも地域によっては公権力が介入した例があるということを映像入りで挿入しようと言い出す。代わりに切られる部分は…。なおも抵抗する来宮に、介護の必要な母親の写真が送られてくる。誰がいつの間に撮ったのか…。
 さらに、常務と専務が番組の試写を要求し、結果、より大幅な変更が加えられることになっていく。今村は経営陣に談判に行く。大雲はそれを止める。こういった経緯が緊迫度を高めながら続く。
 ディレクター丹下、編集マン花田を交えての時間との戦い。
 最終的に会長室に乗り込んだ今村は変更を了承した? 今村には記憶がないという。
 問題となっている、報道側の「空気」による忖度、自粛、自己規制に陥って行く局員達。

 最後の場面は2年後になるが、憲法は改正され、自衛隊国防軍に、共謀罪も成立して、批判的なことは何も言えない時代になったというところで終わる。

 さて、これは時代の危機感を見事に掬い取った作品というべきだろうか。
 演劇としては、前半から主張が明確すぎて先が見えてしまうものであったろう。
 マスメディアの中の人々は、クローズアップ現代報道ステーションの問題、選挙報道の公平性などの問題から、報道の自由が損なわれ、国家権力の報道統制が強まっているという認識なのだろう。
 しかし一方ではインターネットでのニュースが広く行き渡るようになり、個人発信のニュース、論説も多いから、一般人でも検索次第でマスコミの伝えない部分に近づくことが出来るようになっている。新聞、テレビしか見ない時代から、ネットの時代へと様変わりしているのだが、その部分の認識がこの作品では薄いように思われる(脅迫する者はSNSなどを利用するが)。百家争鳴で右から左から様々な情報、意見が飛び交い、映像も瞬時に伝わる。『1984』の世界のような中国(新聞の編集長が解任される、SNSも監視され、大学で教えてはならない事項がある等々)でさえも、天津大爆発のような大規模事故などを隠しようがない。当局はどんどん消していくのだが、それでも残る。(新疆ウイグル自治区の情報封鎖はすごいが)
 今の日本がそのようになるという懸念、危機感があるのだろうか? 観客のどれほどがその懸念、危機感を共有できていただろうか? 少なくとも自分は違和感を感じたのだった。

 耳のせいか、思い込みのせいか、「大雲」が「大久保」にしか聞こえなかった。