山形演劇鑑賞会第337回例会

 扉座 「アトムへの伝言」 作、横内謙介
 平成25年6月4日(火) 18:30開演、20:30終演 途中休憩なし 山形市民会館大ホール
 
 東北巡業で、郡山から山形、そして仙台に移動して上演する。これからご覧になる方も多いでしょうから、以下の感想=ネタバレにご注意ください。
 
 ヒューマノイドが登場する日本の話であるからアトムが関わってくる。
 ヒューマノイドにお笑いを理解させ、芸をさせるということを目標に研究が進められており、そのロボットにかつての名漫才師の相方をさせるという話である。
 
 高さ2間半くらいの石壁で三方が囲まれている。半間四方くらいのブロックが積み重ねられている体だが、もちろんセットは薄いパネルで、所々隙間がある。中央奥と上・下の壁にくぼんだ箇所があり、そこから登退場する。壁際は舞台面より1段高くなっている。6脚のテーブル付き椅子が配置してある。これが研究所のセットだが、他に、奥の壁前にカーテンを垂らして健康ランドの楽屋などになる。セット前方全体にカーテンを垂らして屋外の景を演じる。この幕はキラキラするが透ける素材である。上・下の袖からも登退場する。
 ヒューマノイドが兵器として実用化され、実際に使用された時代。その殺人ロボットを開発した柳恵三博士が、深刻な反省から研究所所員たちに命じたのが「お笑いロボット」の開発だった。昔の海老乃家ラッパと相模三郎という漫才コンビを目標にしろという命令だったが、博士の頭の調子が悪く、どういうわけかカッパをモデルに製作されてしまう。カッパがお笑いを連発する異様な?光景が冒頭にある。
 間違いが判明し、人間型に改造される。全員東大卒の研究員たちは、お笑いになじみがなく、お笑いを論理的に分析することはできても、やはり勘所が分からない。その限界を打ち破るべく、モデルの海老乃家ラッパ(六角精児)に会いに行く。かつては「ちーとも痛くなーい」のギャグで天下を取ったラッパも天才的相方を失い、今やドサ回りの芸人となっている。
 弟子入りを懇願するカッパ(山中崇史)。その姿はあまりに人間臭い。ラッパの昔のネタを即興でやって見せたりする。見事な呼吸。ラッパは今の相方をクビにしてカッパと組む。しかし、ロボットには相方を罵ったり叩いたりすることができない。プログラム上、暴力に歯止めがかかっているのだ。ラッパはそれを改造しろと言う。研究員たちのジレンマ。
 改造されたカッパは激しいツッコミをかますようになるが、一方でクビにされた相方に暴力を振るってしまう。これを聞きつけた柳博士は激怒し、カッパを粉々に破壊するように命じる…。
 以下、ストーリーは自重します。
 
 この芝居、半分は漫才である。ロボット云々ではなくても面白く観られるのではないか。逆に言えば研究所とロボットの話が、この漫才とうまく接合できていない感じもある。
 一時は天下を取ったが今はうらぶれた漫才師の復帰物語と、殺人ロボット開発の倫理的問題、対人地雷の問題を絡ませていて面白くできている。しかし、人間の「お笑い芸」をロボットにさせる必然性が弱く、人間特有の「笑い」とは何かを追求するというテーマが深まらなかったか?