第45回東北地区高校演劇発表会 2日目

 大会結果は、
  最優秀賞・全国大会出場と創作脚本賞宮城県名取北高校「好きにならずにはいられない」。
  優秀賞で春フェスタ出場が青森中央高校「走れ!走れメロス」。
  優秀賞は、青森県立尾上総合高校「愛情協奏曲」、山形県立東根工業高校「明日への誓い」
 ということです。おめでとうございます。
 特に、名取北高校さんは正式な部になった年にこの成果。指導者の力量というべきでしょう。その作品は脚本も演出も演技も独自で個性的で、しかもしっかりしていて「創作」の名にふさわしいものでした。
 
 秋田市文化会館の舞台は1袖の代わりに移動プロセニアムという黒い板が立っている。はじめて見るものだった。中割幕が1枚しかない会館が多いがここは引き割り幕が多く、各校の舞台造りには便利だったろう。照明はコンピュータ制御でなく手上げであるとのこと。
 運営面では、少し押したが大きな遅れではなかった。昨年とは違って大がかりなセットや持ち込みの照明などが少なかったこともあるだろう。アナウンスが上手かった。「~を上演します」と言わずにタイトルを読んで終わる。本ベルが鳴らず、静かに客電が落ちていく。
 生徒講評委員会については、速報が観劇直後の感想の羅列的で、もう少し話し合いが深まってからまとめた方が良いのではと思った。委員の頑張りとともに顧問の先生方の支援ももっと必要ではないかと思う。
 
 以下、2日目の個人的感想です。審査員講評は聞く時間がなかったので、お聞きになった方からすると見当外れだと思われるかもしれません。上演校に対して失礼がありましたらご勘弁ください。
 
 
 上演7 山形県立東根工業高校 「明日への誓い」 原作、「飛球の彼方」井上未央、柴田真佑、清野 和男 翻案、東根工業高校演劇・放送部(代表、佐藤竜慈)
 
 舞台全面に黒いパンチカーペットが敷かれる。ホリゾント全開。移動する3段の階段状高台が2台。あとはトス・バッティング用ネットなど。冒頭黒紗幕使用。最後に吊り物のスコアボード(電光つく)が降りる。総じて上手な作りである。
 原作の段階から観ているが、ずいぶんと進歩したと思った。話の大枠は変わりようがないが、野球部の日常表現が細かくなって、実際の部員のような雰囲気が出ていた。
 2年の夏、甲子園予選の決勝で最後に暴投しサヨナラ負けを喫した投手中田が、やる気をなくしている。実は肩を壊しているのだが、部員たちは知らない。スポ小からの友人大川が励ますが、中田は逆に彼を主ピッチャーに育てようとする。練習を見ている少女、美桜。小児ガンで入院、学校を休みがちである。彼女のことが気になる中田。あとは読める通りの展開。1年間の練習の結果、甲子園予選決勝の再現、ファーストで出場している中田が最後のバッターとなる。入院している美桜の姿が背景に現れ、トランペットを吹く。中田は美桜の言っていた言葉通り、目をつぶりボールの音を聞いて打つ。スイングの途中でストップとなり、無音のまま幕。
 安心してみられる分かりやすさ。ただ、深く観客の心を揺さぶるものはない。ある種の高校演劇の典型とも言えようか。
 
 
 上演8 青森県立青森中央高校 「走れ!走れメロス」 作、畑澤聖悟
 
 素舞台。大黒幕。照明すべて生でフル。音響効果無し。これは全国最優秀の「もしイタ」と同じ。集団の力強い演技。衣装はジャージにTシャツ。メロスだけ古代の衣装、金髪、月桂冠? 運動靴という出で立ちで登場。メロスはお笑い系キャラ。役者の声はあくまでも力強く、会場の空気を支配する。
 冒頭、舞台中央に1人だけ立っている。やがて踊り出すが、よく知られたお笑いのネタである。他の子たちが登場して踊り出すが、やがてこの子ユキコが孤立し、いじめられている状況が見える。転校生のシオリが助けようとする。重苦しいいじめ、傍観する生徒たち、それが見えない担任や教員たち。
 ユキコからの「死ぬ」という電話にシオリは駆けつけようとするが、電車もタクシーも不通という状況。シオリは20㎞の道を走って行く決心をする…が。太宰治の作品が平行して演じられる(ギャグっぽい)。真の友情が証明され、王の凍った心も溶ける。しかし現実は小説のようにはいかない、そんなの夢だ! 力尽きるシオリ。その時、コロスの「夢だけどー」「夢じゃなかったー」(もちろんトトロ)とともに、シオリの前にユキコが現れる。「遅いから迎えに来た」。感動的。そして2人は並んで走り始める、が…。
 地区大会から相当かわっているらしいが、春フェスまでまだ変化するのではないか。最後が担任教師の視点になっているが、どうもおさまりがつかない感じだ。いやこの問題におさまりなどつくわけもないのだろうが。
 もう、すごいとしか言いようがない。だが、観る方の慣れというのは恐ろしいもので、パターン化とも見えてしまうのが惜しい。
 
 
 上演9 福島県立大沼高校 「シュレーディンガーの猫 ~Our Last Question~」 作、佐藤雅通
 
 教室。ホリゾント、最後に青くなる以外使わない。パンフの舞台写真にはパネルやドアが見えるが、木の教卓と教室の机椅子8脚だけで、入り口の戸は無対象の演技で表現。
 男女3人ずつの生徒が残っている。ある生徒のお別れ会の話をしている。それは会津に避難してきている生徒である。またさらに九州に避難するのだという。その子絵里が来る。絵里は海沿いから転校してきてダンス部に入りたちまち頭角を現したという。同じダンス部の子(別のクラス)はあまりいい気がしない。もう1人の子も来るがこの子も避難民のようだが皆印象にない。やがて机を移動させて会が始まり、ゲームなどする。そのうちに各自が思いを吐露し出す。これが放射能の影響などなかなかに深刻な様子だが(タイトルがまず量子力学の喩えで、箱中の猫の生死が50%の確率で重なっているということらしい。福島の人の心情を重ねているのだろう。)、会話と言うよりはストレートに表明するので、延々と続くと意識が集中できず途切れてしまった。だからよく分からない。申し訳ない。
 最後、仲間はずれゲーム?で該当する者が挙手する。「放射能から逃げてきた人」2人、から始まって「絶対忘れない人!」で全員が手を挙げる。これが最終回答か。メッセージの勝った内容である。
 春フェス(いわき)に地元枠で出場とのことなので、そこでもう一度しっかり観ることにしよう。
 
 
 上演10 宮城県第仙台三桜高校 「幸せになあれ」 作、武田郁子+花ちゃんズ
 
 ホリゾント3~4間開いている。ときどき染まる。奥の引割幕と中割幕が狭めてある。幕前に幅1間弱、高さ1間ほど、暑さ1尺ほどの壁が上手に3枚、下手に1枚立っている。薄い水色であるが、これがキャスター付きで、回転(どんでん返し)すると裏はメロンの果肉色である。これらは最後に撤去される。中央の高台もそんな色。下手袖幕に接している段付の高台も同様である。手前には同色のボックスを出して椅子にする。
 6人の妊婦の体操から始まる。初産の者から4人目まで。妊娠の喜びと出産への不安。親に虐待された者は自分も虐待するのではと、養子に出す手続きをする。その過去の情景が中央でリアルに再現される。また、病気で出産は危険だが自分の命を捨てて我が子を生もうとする者。
 一方、教室で家庭経営を学ぶ少女たち、生まれた子に最初にかける言葉は? さまざまな答え。1人が婦人科に来て妊娠3ヶ月と分かる。中絶の話になる。
 母と子の話だ。女子校らしいテーマか。最後には生まれる子にみんなで「幸せになあれ」。
 
 
 上演11 岩手県盛岡工業高校 「GONGERA」 作、安藤 聖 潤色、盛岡工業高校演劇部
 
 和室。袖から袖まで6間ある。上手は9尺くらいの高さであるが、下手に向かって破れたような形に次第に低くなり、3尺くらいになる。1間ごとに柱がある(壁の低い部分も柱が高く出ている)。汚しが施してあり、蜘蛛の巣も描いてある。上手端に太い柱があり、そこから直角に手前に少し壁が出ている。下手は廊下の設定か、手前にも低い壁があり、その間を通って登退場する。上手の壁に3尺幅の出入り口があるが、戸はない。奥に鏡のパネル(6尺高)。下手が玄関とトイレ。あまりに大きな部屋だが、家具はほとんど無い。小さな折りたたみテーブルで勉強している浪人生。
 こういう設定は観念的で、未熟だと思われる。
 内容は、浪人生の恋人、詐欺師の老人、頼りない刑事、やくざなどが闖入してくるが、意味のないやりとりが続く。やがて家が敵に囲まれ?銃撃される。みんな協力して外へ打って出ると、日常の世界だった。この荒唐無稽さは古い(そもそも古い脚本だと思う)。途中、意識が飛んだ。申し訳ない。一昨年の「156、8」に似た感じだ。(あれ、「156、8」は優秀賞だったか…。)
 
 
 上演12 秋田県立大館高校 「みえっぱり家族」 作、高場光春 潤色、花田彩香
 
 4間のパネル、上手に斜めに1間の壁で部屋を作る。正面上手端にドア。内側に開く。芝居中は開きっぱなし。奥に鏡のパネル。奥上手が玄関、下手が風呂場の設定。壁には草彅剛の写真多数。白いカーテンで覆ってある。中央にダイニングのテーブルと椅子3脚。割にリアルな部屋だが、パネルを越えて下手袖まで歩いて登退場する(台所の設定)のが不自然。ホリゾントは開いていて染めてある。
 話はよくできたすれ違いの喜劇で、ちょっと説明しがたいがよく笑える。第42回に本県の山本学園が上演している。
 大会のラストに大笑いさせてもらった。衣装、小道具はよくそろえてあったと思う。