平成24年12月13日(木) 18:30開演 21:20終演 途中休憩15分
山形市民会館大ホール 2列目中央近くで観劇
震災で延期になっていた因縁の例会作品。待望の舞台であったが、文句なくすばらしい上演だった。
10年間で200回を数える上演をこなしてきたという作品。脚本がすばらしい。夏目漱石の「坊っちゃん」では嫌な奴の教頭赤シャツが、この芝居を観た後では好きにならずに居られない。それに反比例して坊ちゃんや山嵐が、度し難い単細胞の馬鹿野郎に思えてしまう。
親譲りの八方美人で損ばかりしているという、坊ちゃんの裏返し。坊ちゃんのばあや清に対して、赤シャツのばあやはウシである。漱石も驚くような逆転を苦もなくやってみせてくれる。
赤シャツの妾腹の弟が松山中学の生徒で坊ちゃんにいたずらしたり、喧嘩に巻きこんだりするという設定。弟は、兄赤シャツの日清戦争への徴兵忌避を知って軽蔑している。
時は日露戦争の終盤、ロシア兵俘虜が松山の収容所にたくさんいる。一方で戦死した家族を持つ人々も多い。芸者小鈴の兄もそう。弟は戦死した人々が兄の身代わりになったような罪悪感から逃れられない。兄の方も、弟から卑怯者、男じゃない、女の腐ったような人間と言われ、自分の誇りとか自信とかを失って胃弱になってしまう。
マドンナは、相手は帝大出の学士で将来有望であれば誰でもいいような軽薄な女で、赤シャツにご執心。うらなりは聖人君子のような人柄で、赤シャツは彼と無二の親友になりたいと思うのだが、世間ではうらなりに嫉妬し、横恋慕してうらなりを転勤させたのだという噂が広まる。
理解してくれるのはウシと芸者小鈴ばかり。やがてひどい誤解の上に「男らしい=馬鹿者」たちから打擲までされて赤シャツはついに開き直る…。
赤シャツの台詞、「自分も堀田先生やぼっちゃん先生のようになりたいなあ。50年後100年後の日本は自分や野太鼓のような、人の顔色をうかがって生きるような人間ばかりになるのだろう。そんな世の中に住みたいか? おれはまっぴらごめんだ。」
後先考えない無鉄砲な馬鹿も困るが、意志不明瞭な八方美人ばかりでも困る。
いい作品だなあ。役者もしっくり役になじんでいた。