山形演劇鑑賞会第335回例会

 平成25年2月8日(金) 午後6時30分開演 8時35分終演  山形市民会館大ホール(1200席)
 文学座公演 「くにこ」 作、中島淳彦  演出、鵜山 仁
 
 一日中降った雪のため来場を見合わせた観客も多かったろう。大分、席詰めが多かった。半分くらいの入りか。前回の「赤シャツ」は良い席だったが今回は13列。もっと顔が見たかった。全体に面白いのだが、半生記ということでやや小走り、羅列的、説明的になったか。
 
 向田邦子の、作家になるまでの半生を描いている。向田家の長女として生まれ、父の転勤につれ全国を転々と移り住んだ。中でも鹿児島や高松での学校生活がその後の人生に大きな影響を与えた。人の世話ばかりして自分の折り鶴を失敗してしまうような邦子だが、教師からゲーテの詩による歌曲「野ばら」の背景を教えられる。ゲーテの愛した少女が野ばらであると。
 向田さんの作品を彷彿とさせる場面が多い。戦時中の、末の妹が疎開先から寄越すハガキのエピソードもある。女学校、専門学校(女子大)を出て就職、父の浮気に悩みながら、自分も妻子ある男性(ゲーテと野ばらになぞらえる)と関係してしまう邦子。この関係の最後(男の病死)は語られない。
 
 石井強司の舞台美術。中央に3間四方の四角い回り舞台。その一角が1間四方ほど切れていて、太い「く」の字のようになっている。人力で回転する。盆の上には布貼りの部分と格子部分が直角になっている衝立状のものがいくつか様々な場所に立てられて部屋の区切りになる。冒頭では子供たちの部屋で蚊帳が吊ってある。盆がいろいろな角度で止まるので変化に富む。戸の開閉は無対象で、音響による表現になっている。
 その上に何度かスクリーンが降りてきて、それぞれの時代の映像を投影する。最後は向田作品のタイトルがいっぱいに打ち出された。縁はイルミネーションになっていて、舞台端(框)のといっしょに点灯したりする。客席と舞台の出入りがあるので、階段の部分には透明なアクリルでカバーがしてある。
 ただ、背景は黒幕でその前に非常に高い灰色のパネルが大小2枚ずつのセットで6組くらいが盆を囲むように立てられている。これがなんとなく違和感があった。もう少しコンパクトな方がしっくりしたかもしれないと感じた。
 小道具・衣装は時代に合わせた古い物を使っていた。ミシンが、布の端切れを縫い合わせるように言葉を縫い合わせて物語を作るということで重要な小道具になっている。
 
 9人の役者さんが、主役以外はいくつかの役を兼ねて演じる。祖母役の塩田朋子が5役を巧みに演じ分けている。『東京ブギ』などを歌う場面がある人はピンマイクを着けている。邦子役の栗田桃子がきびきびしてとても良い感じだ。父親役の角野卓造は頑固親父と貫太郎を楽しく演じている。
 
 脚本の中島敦彦は「平成の人情喜劇作家」と言われているようだ。
 
 次回例会は4月8日、劇団民藝公演、畑澤聖悟作の「カミサマの恋」。運営担当サークルである。