劇団山形 第75回公演

 11月19日(土) 18:30開演 20:40終演
 山形市中央公民館ホール  入場数200~300名くらい(未確認)
 入場料 当日 一般1200円 学生700円  (前売り各1000円、500円 招待券で入場)
 『くちづけ』 作、宅間孝行  演出、平野礼子
 
 県内のアマチュア劇団では最も実力のある(と自分は信じる。観客動員数から見ても分かるだろう)劇団山形。今回の出し物は知的障害者をめぐる重いテーマを扱った『くちづけ』(2010年東京セレソンデラックス初演)。休憩なしの2時間10分があっという間だった。何度も涙をこらえなければならなかった。芝居を見て泣いたのは、夏の高校全国大会以来だ。素晴らしかったです。
 
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 鳥のさえずりで幕が上がる。暗い中で男の声がする。明るくなると、いつものことながら一杯に組んだ室内のセット(知的障害者グループホーム)。上手に玄関。その手前にテラス(この辺が、客席によってはちょっと重なって見にくい)。室内は6間間口に平台を並べ、パンチが敷いてある。奥に3段上る階段。踊り場があって下手側に8段ほど上がる階段。結構この階段を使って芝居する。その下にドアがあり、奥に出入りする。中央に緑色のソファと低いテーブル。黒い丸いスツールが4脚くらい。下手の壁に暖簾の掛かった出入り口(トイレがある)。小さな絵が2枚掛けてある。玄関と階段の間にある壁に窓(はめ殺し)が2つ、踊り場に大きな窓。奥に灌木、遠見の山、ビル。ホリゾントは上手側しか見えないが、夜、星球が点く。部屋の外は黒い地がすり。このリアルなセットがどれだけこの劇団の芝居を支えていることか。
 役者さんは達者で、演技は「演じている感」を越えて「リアル感」を醸している(最近講評をいただいた村元先生の言葉で言ってみました)。よく知っている方々も、もうその役柄で作品の中に生きていると感じられる。うーやん役の方は知的障害者のリアリティーを過不足無く表現していた。
 ホーム入居者それぞれがかかえる問題は、知的障害者を取り巻く現実の縮図だ。そして、最も大きなテーマは、障害者を引き受ける家族の問題だ。うーやんを引き取り、自分の結婚をあきらめても、生涯面倒を見ようと決意する妹。これは、少し前にEテレで見た「きょうだい」の問題を思い起こさせた。そして障害を持つ子(といっても30代)を残して死ななければならない親の気持ち。
 最悪の結論は、心中ということになるのだが、しかし、これが「最善」と思えてしまう現実の状況が悲しい。マコの父親の愛情いっぽんを演じたIYさんはやっぱり上手い。妻に死なれ、30歳になる障害を持つ娘を必死に守ろうとする男を、これも過不足無く演じていた。
 
 多くの人は(自分も含めて)、家族や親戚の中に何らかの障害をかかえる人を持つ経験をしているだろう。そういう人にとっては、この苦悩は身につまされるものである。そういう経験を持たない観客の反応はどうなんだろう。悲しい、やるせない話だとは感じるのだろうなあ。自分が肝臓癌で余命幾ばくもないことを、誰にも明かせない親の気持ちが、どれだけ切実に理解できるか…。
 親兄弟の気持ちの一方で、障害者本人の気持ちというのがある。この表現こそが難しい。彼らを人間として見、人間として演じることがどの程度できるか。今日のお芝居は、かなり成功していたように思われる。(ただ、もう1段練り上げる余地はあったかと思われる。袴田さんの存在、はるかの気持ちなどもう少しありそうな気がする。智子のうーやんに対する気持ちもそうだ。マコの表現は若干一本調子にも感じられたが、それを言うのは欲というものかも知れない。)
 
 照明は、玄関の中の照らし方が難しかったと思うが、あとは問題なかった。音響は、やや選曲に納得できない時があったが、個人の趣味の問題だろう。最後のマコの歌は、どうなんだろう。ああいう入れ方が最適なんだろうか。
 
 力作と言える台本を、2ヶ月半でここまで仕上げたのは素晴らしい。ただ、DVDが発売されていて、それを最初に見ているのが良かったのかどうだったのか。初演は大変だが、それを見ての演出は、見習う所から出発できる。それが、おそらく、一から作り上げた初演を越えるのに為になったのかならなかったのか…。
 
 自分はアマチュア演劇を観ては感想を書いているが、社会人演劇は、高校生、大学生とも違う大人の演劇ができる点でうらやましい。高校生がどう頑張っても、年配の役には無理がある。その点、幅広い年代のいる劇団は、さまざまなテーマを扱えるのでレパートリーが広がる。
 劇団山形さんを筆頭に、各劇団がそれぞれの持ち味を活かしてハイレベルの芝居作りをしてくださることを期待しています。