自作高校演劇脚本⑧『中庭のダイコン』

 

『中庭のダイコン』作・佐藤俊一

 

時  現代の秋 修学旅行後、一週間ほどの間の出来事

所  山形市にある某女子高校の中庭

登場人物 

   鈴木ひとみ(高校二年生)
   高橋かおり(高校二年生)
   佐藤あきこ(高校二年生)

 

1幕7場

初演 2008(平成20)年 山形西高等学校演劇部

 

 


   音楽
   幕開き(LO)

 

1場

 

   昼休みの中庭。一段高い植え込みの前に石のベンチがある。

   下手から弁当を持った制服の生徒が三人、楽しそうに入ってくる。

   二人が石のベンチに腰掛け、一人ははしゃいだ様子で枯葉をかき集めている。


ひとみ 葉っぱがいっぱいだー。


   ひとみ、立て掛けてあった竹箒で枯葉を掃く。石の上も。


かおり すごいねー。

あきこ 京都に行ってる間に、こんなに落ちたんだね。

かおり 京都は、まだ山、紅葉してたけど、こっちはもう枯れちゃってるもんね。

あきこ これさー、堆肥にしてなかった?小学校で。

かおり 花壇とか作ってたよね。高校は何もないから、堆肥つくってもしょうがないん

    だよね、きっと。

あきこ 「おたべ」、もう配った?

かおり ん、大体。「おたべ」じゃなくて「夕子」だけど。

あきこ あれ、中身おんなじだよね。


   植え込みの上で落ち葉をかき分けていたひとみが、何かを見つけた様子。

   枯葉の塊を抱えて下の二人に投げかける。


二人  わー! 何よ、これ!

ひとみ あはは!

かおり 笑ってんじゃなーい!


   二人も枯葉をすくってはひとみに向かって投げ上げるが、上と下では相手になら

   ないので植え込みに上がって行く。落ち葉掛合い戦争。


あきこ こーら!

ひとみ ごめんごめん! かんべんして!

かおり 何はしゃいでんのよ、もう。

ひとみ …だって、ここ来るの久し振りなんだもの。

あきこ たった一週間でしょ。

かおり さあ、早く食べないと昼休み終わっちゃうよ。


   三人、下りてきてベンチに座り、弁当を開く。


三人  いただきます。

かおり でも、ほんと久し振りって感じだね。

ひとみ 寒くなってきたし。草も勢いなくなったね。

あきこ もう虫除けスプレーもいらないかな。

かおり 中庭のランチもあとどのくらい続けられるか。

ひとみ 楽しかった。

かおり 来年もやろうね。

ひとみ うん。また同じクラスになるといいね。

あきこ このカボチャ、おばあちゃんが煮たの。(と自分の弁当を差し出す)

かおり (箸でつまんで口に入れる)おいしいね。お袋の味だね。

あきこ おばあちゃんもね、頭はっきりしてるときは良いんだけどね。

    ダメなときは鍋焦がすし、危なくって。

かおり 大丈夫な内に、お袋の味教わっておいたら?

あきこ それはまずお母さんが受け継いでおくべきだよね。順序から言って。だけどう

    ちの母さん、習おうなんて思っちゃいないからね。

かおり だから言ってるのよ。あ、この卵焼き食べてみて。

ひとみ ありがとう。

かおり しっかしよく落ちたね、この葉っぱ。

あきこ この中庭、掃除しないし。

ひとみ 外掃除の割り当てないんだよね、ここ。

かおり 除草剤も撒かないもんね。

ひとみ 撒かない方が良いよ。自然のままで。

あきこ でも虫とか来るし。私ばっか、くわれるんだから。

ひとみ この辺は舗装してあるじゃない。

あきこ レンガの間から雑草生え放題だったでしょ。夏の間。

    二組さ、焼き芋するんだって、こんどのロングで。グランドで。

かおり 阿部先生いいよね。やってくれるから。

ひとみ うちのクラスだめだよね。まじめすぎだよ。

あきこ 話し合いばっかだもん。修学旅行の班決めだって、あんなに何回も話し合いし

    なくてよかったよね。

    もう、好きな人同士で勝手に班作って終わりなんだってよ。うちなんか、出席

    番号で分けようなんて言う奴までいたからね。

かおり 班の人数、みんな同じにしようとするからよ。二組なんか五人から一〇人まで

    あったんだから。

あきこ どうしたって余る人出るんだからさ、余りの班作るしかないじゃない。ね。

かおり それって、私たちのこと?

あきこ 三人はないか、やっぱり。


   SE カラスの鳴き声


かおり あ、来てる。留守の間、どうしてたのかな。


   かおり、上手に移動してカラスに弁当の残りを与える様子。


かおり ほら、ハシボソはああやって歩くんだよ。ハシブトは、スズメみたいにぴょん

    ぴょんはねるんだけど。鳴き声はハシブトの方がきれいだけどね。

あきこ ねえ。ねえ! カラス餌付けしてどうするの?

かおり かわいいじゃん。

あきこ え? どこが。あのカラス、こないだ雀を追い回していじめてたよ。かわいそ

    うじゃん。だいたいカラスなんて、ゴミ袋破いて散らかすし、朝から鳴いてう

    るさいし、真っ黒で気持ち悪いし…

かおり それって差別!

あきこ はあ?

かおり 偏見よ。黒いのがダメなら、パンダだってダメでしょ。

あきこ いやパンダは、いいでしょ。半分白いし。真っ黒だったらただの熊だけど。

    でも、なんでそんなにカラスにこだわるかな。

ひとみ 私も思ってた。なんで?

かおり 私、カラスになったことあるの。

二人  ええ?

かおり 夢の中で。

二人  あー。

かおり 空から、高いところから見てた。人が小さく見えて、何か…。

    人間だった自分がちっぽけでつまんない感じがした。

    カラスのときは、すぐ横に友達、っていうか身内っていうか、いつもいて、寂

    しくなかった。カラスはみんな強く結びついてる。そういうことが、よく分か

    ったの。

あきこ そうですか。前世はカラスだったんでしょうね、きっと。

かおり そうかもしれない。

あきこ まじかよ。

 

   ひとみ食べ終わって、ボトルからお茶を飲んでいる。

   植え込みに上るひとみ、空を見ている。


ひとみ あ、でてる。今日のはすごく長いなー。

あきこ 好きだよねー。

かおり それ、何が面白いの。

あきこ カラスよりはましじゃない。白いし。

ひとみ 好きなんだなー、飛行機雲。晴れてたら大抵見られるよ。すぐに消えちゃうの

    もあるけど、今日みたいに長いのはずーっと残ってて、だんだん幅広くなっ

    て、薄くなって、いつのまにか消えちゃう。

かおり へー。

ひとみ いっぺんに三本くらい見えることもあるし、最高は五本、見たことがある。

あきこ へー。

ひとみ それがさ、みんな、まるで別々の方角に伸びていって、出会うこともなくて、

    消えて行く…まるで、私たちの人生みたい。

二人  はー。


   二人も植え込みに登って来て空を見る。

   ひとみ、二人に場所を譲り、今度はしゃがんで地面を見ている。


あきこ わかる?

かおり 消えていくねー。…人生が。

あきこ あれ、それ何?

ひとみ え? 何?

あきこ あんたが見てるそれ、タンポポとかじゃないよね。何か白いの見える。

かおり 大根か、これ。石の間に挟まってるの。

あきこ ダイコン?

ひとみ …大根だね。

あきこ なになに、なんで大根生えてんの?

ひとみ あれ、ほら、よくあるやつじゃない。

かおり ど根性大根ってあったじゃない。

あきこ あったあった。

ひとみ アスファルトの隙間に生えてたの。

かおり なんでそんな所に生えたかな?

あきこ みんなで応援してたよね。「だいちゃん」て名前じゃなかった?

かおり そう、「だいちゃん」。あれ、誰か折ったじゃない。

あきこ そういう奴っているよねー。まじひどい。

かおり それで残った部分から培養してたんだよね。あれどうなったのかなー。

ひとみ それ、その大根折った人って、どんな気持ちだったのかな?

あきこ えー、ひねくれ者よ。皆にもてはやされるのをねたんで、自分が受けないのを

    憂さ晴らしすんのよ。

ひとみ そうかな?

あきこ じゃ何よ?

かおり もしさ、雑草が生えてんだったら、皆、抜くよね。

あきこ ていうか、気にしないし。

かおり 抜いても誰も悪く言わないよね。それが大根だと非難される。

あきこ 大根は雑草じゃないから。

かおり 差別よ! これは。雑草差別!

あきこ いや、あのね。雑草は無駄。邪魔だから。

かおり それが差別でしょ。

あきこ 大根は野菜で食べれるし、

かおり だったら、大根折って、煮て、食べてもいいことになるじゃん。

あきこ ええ?

かおり きっとさ、そういう、差別に敏感な人が折ったような気がするんだ、私。

    『なぜ大根だけをもてはやすんだ、雑草をバカにするなー!』ポキッ!

あきこ それひどいじゃん。大根に罪ないし。大根かわいそー。やっぱ、ただのバカじ

    ゃん、それ。

ひとみ んー、やっぱり折っちゃいけないよね…。

かおり ま、たかが大根ってことで。ひとみさ、第一発見者なんだから名前つけなよ。

ひとみ 名前?

あきこ そうね。「だいちゃん」に負けないの…。「ダイコング」なんて強そうじゃな

    い。

かおり 「おーね君」て、どう? 古文で読まなかった?「大根の恩返し」だっけ?

あきこ 「君」ってつくと、「せんと君」連想するなー。(枯れ枝で鹿の角を表現)

ひとみ いいよ、なんでも。それより、このこと、誰にも言わないでいよう。

かおり どうして?

ひとみ だってさ、教えたらみんな見に来るじゃん。

かおり 来て悪い?

ひとみ 来たら私たち、ゆっくりランチできないよ。

あきこ ちょっとの間でしょ。太くなったら抜いて食べちゃうし。

ひとみ 食べるの!

あきこ いや、ほっといたら腐るだけでしょ。野菜は食べなきゃ。

かおり おいしい野菜には虫がつくんだよね。虫が。

あきこ じゃこれ。


   あきこ、ポケットから小さなスプレーを出してダイコンに吹きかける。


あきこ 虫除け。

かおり なるほど。でも、ドク野菜になっちゃうような…。

ひとみ これさ、私たちだけの秘密にしようよ。

あきこ 私はいいけど。

かおり 私もいいわよ。誰かに引っこ抜かれたりしたら嫌だし。

ひとみ じゃ、三人で見守ろう。

二人  うん。


   午後の授業の予鈴が鳴る。


かおり 次の授業、誰だっけ?

あきこ 阿部先生。


   三人あわてて弁当を持ち、退場

   暗転


2場


   明転

   数日後、昼休みの中庭

   三人登場落ち葉を払って座る。いずれも疲れた様子。


かおり あーあ、疲れた。まだ月曜日だっていうのに。今週もたねーよ。

    ねえ、修学旅行のすぐ後の土曜日に模擬試験なんてあり得ないよね。

あきこ 当然のように、全然できんかった。はっはー。ひとみ、模試何で休んだの?

ひとみ 法事。

あきこ ほーじ?

ひとみ 弟の七回忌。命日は少し先なんだけど。

あきこ 弟、いたんだ。

かおり ひとみの四つ下だから、生きてたら十三歳。中一かー。

あきこ かおりは、ひとみと中学校、いっしょだったよね。

かおり 小学校から。一年生の時、ひとみが雨の中ずぶ濡れで歩いてるのを傘に入れて

    やって、家まで送って行ったの。

ひとみ かおりも半分濡れちゃって、家でお風呂に入っていったんだよね。

かおり そうそう。…たかしちゃん、ひとみの弟は、小学校入る前に亡くなっちゃった 

    から、私は会ってないんだけど。

あきこ 亡くなったの? なんで?

ひとみ 風邪ひいてさ、こじらして。っていうか、医者が悪いんだと思う。

    初め、風邪だって言って薬くれたんだけど、飲ましても良くならなくて、何

    か、うわごと言い出したりして。親が驚いてさ、おんぶして医者へ行ったら、

    「これはインフルエンザだ」って。

あきこ ええー。それはないでしょ。

ひとみ お父さんも怒ったよ。「なんで初めに検査しなかったんだ!」って。

    でも、弟、熱のでない質だったんだよね。初めは八度ぎりぎりくらいにしかな

    らなくて…普通インフルエンザだったら、ぱーって四〇度とか出るでしょ。

    県立病院に運ばれて、なんかいろいろやってもらったんだけど、死んじゃっ

    た。

あきこ ふーん、そんなこともあるんだ。かわいそうにね…。

    うちの弟なんか、あれ、あれ? なんだっけ、中国で流行った風邪みたいな

    の。

かおり 風邪みたいなの?

ひとみ 鳥インフル

あきこ あー、SARSだ、サーズにかかってもうちの弟、死なないと思うな。

かおり すごいね。不死身だね。

あきこ 毎日泥だらけ砂だらけで帰って来て、ガツガツ飯くって寝るからね。

ひとみ 野球部だもんね。強豪校だし。

あきこ 強豪校っていっても、なかなか甲子園行けないからねー。

かおり あきこ、弟と仲いいの?

あきこ ええ? あんな奴、人の大事にとってたアイス食べるし、喧嘩ばっかり。

かおり 仲良いんだね。ひとみの弟、可愛かった? 仲、良かった?

ひとみ …何だろ? ほとんど無関心だったって言うか、私自分のことでいっぱいで、

    弟のことなんか一つも考えてなくて、…姉らしいことも何もしなかったな。

あきこ 弟なんて、人生で最初に出会う他人だからね。

かおり え、そうなの! 私、弟いねからわかんね。

あきこ 「兄弟は他人の始まり」…「従姉妹はとこは」だったかな?

ひとみ 他人の始まり?

あきこ 兄弟は他人の始まり。でも、親子の関係は切っても切れない。

    嫁と姑はそもそも他人だから、表面では「おかあさん、おかあさん」とか言っ

    てても、陰では悪口の言い合い。

ひとみ それも怖いな。

かおり おっと、大根、大根。


   三人、植え込みに上る


ひとみ 無事に育ってるみたいね。

かおり でもどうしてこんな所に生えたんだろう?

ひとみ 鳥が運んで来たんじゃない?

かおり そうか、「権兵衛が種蒔きゃカラスがほじくる」ってか。

あきこ 私、これ持ってきたよ。

かおり CD? 英単語かー。何すんの?

あきこ カラスが突っつくといけないから、これぶら下げてさ、追い払うの。

かおり あんた、本当に、カラスに偏見持ってるね。

あきこ 塩も持ってきたよ。(大根の周りに分厚く撒く)

かおり 何? 魔除け?

あきこ ナメクジ除け。周りにまいといたら、ナメクジ来ても溶けちゃうでしょ?

かおり ははは、それいいかも。でも、大根、塩味になるんでね?

あきこ で、これが液体肥料アンプル。

かおり 買ってきたの?

ひとみ あんまりさ、余計なことしない方が良いんじゃない?

あきこ 余計なこと?

ひとみ 自然に任せておけば良いんじゃない?

あきこ 虫に食われたり、ナメクジに嘗められたり、カラスに突かれたりしても良い

    の?

ひとみ それがこの大根の運命だったらしょうがないじゃない。

あきこ しょうがないって…そんなこと言ってたら、農業成り立たないでしょ。野菜は

    人間が野生の植物を改良して作り出したものなんだから。

ひとみ 見守るだけでいいのに。変なことばっかりして。

あきこ 変なことって何よ、変なことって。


   たじろぐひとみ。


かおり まあまあ、まずランチにしようよ。


   三人、弁当を開く。いつものようにおかずのやりとり。


あきこ おばあちゃん、最近怖いんだよ。私のこと恐ろしい顔して睨むの。ちょっと

    さ、注意しただけなのに。「今日は新聞来ないね。忘れたんじゃないかー」っ

    て心配するからさ、「今日は新聞休刊日じゃない。忘れたの」って言ったの。

    昨日さ、おばあちゃん、自分で、「明日は休刊日だね、明日は休刊日だね」っ

    て言ってたのよ。

かおり まだらボケっていうの? それ。

あきこ 私のこと、殺してやりたいってくらいに、目がこんなにつり上がって。

    怖かった!

    あんなに優しくして可愛がってくれたのに、私のこと忘れてしまって…。

ひとみ …。

あきこ そん時はお母さんのことも分かんなくなってね。でもさ、お母さんは最初っか

    ら他人だから、おばあちゃんから忘れられても、悲しく感じないみたい。

ひとみ そうなの?

あきこ 血のつながった家族でもさ、あんなになるなんて…嫌だな。

かおり 誰でも年取ったらそうなるんだよ。

あきこ 私、あんなにならない。

かおり あきこのおばあちゃんだって、なる気でなったわけじゃないでしょ。

あきこ あんたらさ、自分でそういう目に遭ってみないと、私の気持ち分からないよ。

かおり そんなこと言わないでよ、もう。


   三人、弁当を食べ始める。おかずの交換。

   上から紙切れが落ちてくる(あるいは地面に落ちている)


あきこ 何? これ。誰?

ひとみ 上の理科室から落としたんじゃない?

あきこ (開いて読む)もしかして、カンペ?

かおり これ課題テストのじゃない?

ひとみ テスト前にまとめたんでしょ。いるんだねー、カンニングする子。

あきこ カンペって言えばー、中学のとき、見つかって口に入れて呑み込んだ奴いたっ

    けよ。男子で。

ひとみ えー、食べたの! 紙。

あきこ でも職員室連れてかれて、泣いてあやまったんだって。親も呼ばれてさ、ばか

    だねー。

かおり これ、こんな所に落としたらバレるじゃんねー。

あきこ 筆跡で? わからんでしょー。

ひとみ こんなの作る時間あったら、その分勉強すればいいのにね。

あきこ それ正論。だけどね、勉強しても分かんないから作るんでしょ。私だって作っ

    たことあるもの。

ひとみ 作ったの!

あきこ 作ったけどポケットから出せなくて。テストも赤点。あんな嫌な気分になるん

    だったら、堂々と0点とった方が気持ちいいわ。

かおり 「堂々と0点」か。(笑)


   SE 午後の授業の予鈴


かおり おーし、中村の英語だ。

あきこ あ、単語テスト、全然見てね。

かおり 気持ちよく0点!

あきこ いや、それは中村が許さんでしょ。


   三人退場

   暗転


3場


   明転

   翌日、昼休みの中庭

   ひとみ、登場。植え込みに上って大根を抜こうとする。

   あきこ、登場。


あきこ ひとみー、今日は飛行機雲見ないの。…何してるの?


   ひとみ、慌てて、CDを取る。


ひとみ これさ、いらないでしょ。目立つし、カラス来ないし。

あきこ 何勝手なことしてんのよ。

ひとみ 自然のままにしておこうよ。

あきこ だから自然のままで生き残れると思うの?私が虫除けしたり、肥料やったりし

    てるから残ってるんでしょ。

ひとみ 何もしないでほしいの。

あきこ はあ? もうわけわかんね。


   かおり遅れてくる。ひとみとあきこ、自然に座って弁当を開く。


かおり ごめん、遅くなって。部活のことで呼ばれちゃって。

ひとみ 昼休みに集めるのやめてほしいよね。

かおり しょうがないよ。

ひとみ かおりは私らと違って部活一生懸命だもんね。

かおり 一生懸命、か。試合も出られないのに。

ひとみ レギュラーなれそうだったんじゃないの?

かおり レギュラーなんて…。二年生なのに万年補欠、二年生で役付きでないの私だけ

    だし…。

あきこ 会計だったけどね。

ひとみ あきこ。

かおり …会計だったけど、お金無くしちゃってやめたし。

あきこ 盗まれたってはっきり言えばよかったのに。

かおり 置きっぱなしにした私が悪いんだから。

あきこ みんな、あんたを疑ってたじゃない。

ひとみ やめようよ。

あきこ あいまいな態度とるのが、一番良くないんだよ。

ひとみ かおりが悪いの?

あきこ そんなこと言ってないから。

かおり 今さ、私だけ呼び出されて、次から一年生でエントリーするって言い渡されち

    ゃった。

ひとみ えー。

あきこ やめちゃいなよ。部活がなんだっていうの。

かおり 気楽に言わないでよ。

あきこ あんなの、やりたい奴だけ、やりたいようにやってりゃいいんだよ。変に実力

    でレギュラー取ろうとか考えるから難しくなんの。

かおり あんたは実力あったのにさっさとやめたもんね。

あきこ 実力あったとしてもだめなの。人間関係なんだから。

    チームメイトが誰も私と練習したがらなくなったらどうする?

    やめるしかないでしょ?

かおり あんたんとこの部とは違うよ。

あきこ おんなじよ。

ひとみ やめようよ、もう。二人とも傷ついてるのにそんな言い合いしないで。


   少しの間、三人黙って弁当を食べている。おかずの交換はない。

   あきこ、その沈黙に耐えられないように立って植え込みに上り、大根の周りの草

   を抜きはじめる。


あきこ 抜いても抜いても生えてくる。きりがないんだから。私に意地悪してるんじゃ

    ないか、お前ら。

かおり あきこ、やめなよ。

あきこ 雑草、雑草。

かおり やめなよ!

あきこ 何よ。

かおり こないだ言ったでしょ。何で雑草は抜いて大根は大事にするの。

あきこ 大根が育たなくなるのよ。雑草育てて何になるの? カラスに餌やんのと同じ

    で意味無いでしょそんなの。

かおり たかが大根じゃない。ここは中庭で、あんたの畑じゃないの! 何やってんの

    よ、肥料やったりして。あんたこそ牛や豚かわいがって育てて、結局殺して食

    べるのと同じじゃない!何良い子ぶってるの? そんなの気持ち悪くって見て

    らんない。

あきこ ずいぶん言うわね。あんた、ほんとに大根と雑草の違いも分かんないの?

かおり …分かってるよ。成績の良いのが大根で、勉強できないのが雑草。

    部活のレギュラーが大根で補欠が雑草。

    美人が大根でブスは雑草!

    私は、雑草!

あきこ …。

ひとみ 「雑草という草はありません」!

かおり え?

ひとみ 「どんな草にも名前があり、精一杯生きているのです」…昭和天皇の言葉。

    ね、この大根のことでけんかしないでよ。私、悲しくなる。

あきこ (下りてくる)ごめんごめん。私がイライラしてたから。向きになっちゃっ

    た。かおり、ごめんね。

かおり 私もごめん。やだ、変なこと言って恥ずかしい。

ひとみ 大丈夫、大丈夫。

あきこ 雑草だって精一杯生きている、か。そりゃね、雑草の方が生命力強いからね。


   三人再び弁当を食べ始める。おかずの交換。


かおり あ、そうだ。明日から雪囲い作業で、中庭入れないんだよね。

ひとみ お弁当、教室で食べるのかー。

あきこ あ! 大根、どうしよう。

かおり どうって?

あきこ 作業の人来て、見つけるんじゃない。そうしたら…。


   あきこ、枯れ枝で大根の周りを囲い、メモを作る。


あきこ 「この大根、ラディー君は、生徒たちが育てています。決して取らないで下さ

    い」これでよし。

ひとみ 「ラディー君」って?

あきこ ひとみが付けないから私が付けてあげたの。ラディッシュからとったの。

    どう?

ひとみ 名前がどうとかじゃなくて…。


   SE 午後の授業の予鈴


あきこ あー、まだ食べ終わってないのに。

かおり ごめーん。


   あきことかおりの二人、急いで弁当を掻き込む。


ひとみ (二人の様子に焦って)次、中村先生だよ!

二人  「いやー。」(口がいっぱいでよくしゃべれない)


   三人、慌てて退場

   暗転


4場


   明転

   三日後、昼休みの中庭

   三人が入ってくる。少し遅れて入ってくるひとみの様子がおかしい。


あきこ あれー? どこ、雪囲いしたんだ?

かおり ここ、しないんだ!西側の中庭、あんなにがっちり雪囲いしたのに。

あきこ ほんとに見捨てられてるのね、ここ。

ひとみ あーあ、この二日、教室で食べるのしんどかったー。

かおり こんな、人々に忘れられた中庭でも、私たちにとっては掛け替えのない、憩い

    の場所だものね。

あきこ 私は別に教室でもいいんだけど。

かおり そうなんだ。

あきこ 私の愚痴を聞いてくれる人がいるからここに来てるのよ。

かおり はいはい。


   三人、弁当を食べ始める。


あきこ おばあちゃん、カラスに頭つつかれたって騒ぐの。もう、ぎゃあぎゃあ泣き喚

    いてさ。お母さんが頭見ても、傷も何もないのに。

ひとみ でもカラスに攻撃されるってよく聞くけど。

かおり それはね、子育てしてる巣の下を通ったりするとね威嚇するけど、今はそんな

    時期じゃないし、第一、飛んできて嘴でつつくなんてあり得ないから。

ひとみ 映画でさ、カラスが人間を襲うのあったじゃない?

かおり あれはカモメ。ヒッチコックの「鳥」でしょ?

あきこ 映画っていえばさ、私ビデオ撮ってるの。おばあちゃんの。

かおり 何で?

あきこ 元気なときのおばあちゃん、残しておこうかなって。

かおり それ、いいよ!

あきこ いつか、これ見て、ああ、おばあちゃんってこんなだったんだって、しみじみ

    したりするんだろうなー。なんか不思議な気がする。

    でも、どんなに変わっちゃっても、おばあちゃんはおばあちゃん。だよね?

かおり うん。

ひとみ (独白のように)ビデオって、昔のままで残るんだから不思議だよね…。

    こないだ、捜し物してたら、押入からビデオ出てきたの。

あきこ 何? 押入から? それって呪いのビデオ?

かおり あきこ、ヨウツベ見過ぎ!

ひとみ 昔お父さんが撮った家族のビデオ。

あきこ なんだ。

ひとみ 私の七五三とかピアノの発表会とか映ってるらしいんだけど。

かおり らしいって、見てないの?

ひとみ 親もずーっと見ないで放っておいたんだね。きっと弟が映ってるからじゃない

    かな。私も、なんか見れなくて、机の引き出しに入れてあるの。

かおり 親も亡くした子ども思い出すとつらいのかなあ。

あきこ あ、ラディー忘れてた。ラディーちゃーん。そろそろ抜きますよー。


   あきこ、植え込みに上る。ひとみも立ち上がる。


あきこ あれ?あー、折れてるっ、てか折られてる!


   二人も植え込みに上る。


かおり ああっ! 葉っぱがむしられてる。

あきこ 誰だーこんなにしたの。くっそー。カラス!カラスよカラス。

かおり 違うよ。これ、人間が取ろうとしたんだよ。見れば分かるでしょ。

あきこ 雪囲いの人かな。取るななんて注意書きしたのが、まずかったかな。

かおり 雪囲いの人来てないから。

あきこ かおり…。あんた、雑草の味方してたよね。

かおり はあ?

あきこ 自分が雑草で、大根を恨んでたでしょ。

かおり またそんなこと言い出すの?

    そうよ、こんな大根なんか消えて欲しかったわよ! 

    だけど、私がやったんじゃない! ね、ひとみ。…ひとみ?

    よくそんな落ち着いてられるわね。大根が折られてるのよ。

ひとみ 私。

かおり え?

ひとみ 私が折ったの、この大根。

かおり え? 何?

あきこ どういうこと。

ひとみ 私が、きのう、ここに来て、この大根を抜いたの。でもうまく抜けなくて、途

    中で折れちゃった。

かおり ひとみ。

あきこ だから、どうしてこんなことしたかって聞いてるの! せっかくここまで育て

    たのに!

ひとみ この大根はね、私がここに種蒔いたの。それが芽を出して育ったの。

かおり そんなこと初めて聞いた。どうして言ってくれなかったの?

あきこ 自分で蒔いて、自分で折るって、何それ?

ひとみ これ私の大根だから。私の好きなようにするの。

かおり ひとみ。

あきこ 私にあてつけてるの?

ひとみ 違う。

あきこ 私が大根の世話しているの見て、心の中で笑ってたのね。何が、ど根性大根

    あんたが一番、根性腐ってるのよ!

ひとみ …そうかも知れない。

あきこ 私の頑張りなんか、誰も認めてくれないんだ。もうやだ!

 

   あきこ、むちゃくちゃに弁当をしまう。


かおり あきこ!


   あきこ、走って退場

   ひとみも黙々と弁当をしまい始める。


かおり どうして? 何が起きたの?

ひとみ ごめんね。一番悪いのは私だから。


   ひとみ、退場


かおり  わかんねーよー!


   短い暗転


5場


   明転

   次の週、昼休みの中庭

   かおりとあきこ、二人だけで寒そうに弁当を食べている。

   マフラーなどしている。

   どちらからともなく植え込みに上る。


かおり 大根、黒くなっちゃったね。

あきこ もうだめかな。水かけてもだめかな。

かおり だめだね、もう。

あきこ 来年、また出て来ないの?

かおり 無理でしょ、芋じゃないんだから。

あきこ このまま腐っちゃうの?

かおり しかた無いでしょ。土に帰るってことよ。

あきこ こんな所に蒔かれなかったら、みんなと一緒にちゃんと畑で育って、スーパー

    の棚に並んでたんだろうね。

かおり でも君は立派に生きたよ。生きようとしていたよ。ここでもっと生きられた

    ら、きっと花を咲かせて種を作って…

    その種はまた鳥や風に運ばれて、遠い遠い所まで飛んでいったんだろうね。

    この世に大根が生まれてからこのかた、何千年だか知らないけど、この大根は

    その子孫で、何千世代という大根の命に連なっている。

    でも、君の命はここで絶たれてしまった。もう続いては行かない。君の子孫は

    もう生まれない。

あきこ かおり…。

かおり あ、私、変なこと言った?

あきこ んーん、違くて。かおり、大根のことすごく考えてるんだ。私、そんなふうに

    考えたことなかった。そうだよね、大根は種残すんだ。残さなきゃ大根絶滅す

    るよね。雑草だって同じだ。…人間も同じだ。

かおり みんな生きてることに変わりない。


   二人、もどって石のベンチに座る。


あきこ …ひとみ、来ないね。

かおり 教室でもしゃべらないし。なんか、お弁当、自習室で食べてるみたい。

あきこ 暗い奴だよねー。

かおり そんなのずっと前から分かってるじゃない。

    でもさ、ひとみは自分で思ってるほど暗くないし、優しい子なんだよ。分かる

    のに時間かかるけどね。

あきこ 私さー、たかが大根のことで言い過ぎたかなー。

かおり 「たかが大根」ですか。

あきこ うん。今思うと、何であんなに大根にかまってたのかな。自分でも不思議。

    「自分は大根だ」って、「自分は雑草と違うんだ」って思いこんでたのかな。

    大根か雑草かなんて、そんなのたいして違いがないのに…。

    かおり、ひとみなんとかして。連れてきてよ。

かおり どうするの?

あきこ 謝るっていうか…私が悪いわけじゃないからゆるすっていうか…でも何をゆる

    すんだっけ?

かおり あきこが育ててた大根を折ったことでしょ?

あきこ そう、それ。だけど、ひとみが種蒔いたのなら、あれはひとみの大根で、そし

    たら私は余計なことっていうか、ひとみに悪いことしてたのかも知れない。

かおり ひとみが何考えて大根の種蒔いたのか、それが分からないよね。

あきこ 大根のことはもういい。要するに仲直りしたいのよ。ひとみのこと放っておけ

    ないじゃない。

かおり 放っておけないよね。なんか、自分のことより気になるよね。私もなんだ。

あきこ そうだよねー。…ああ、それで私たち「中庭のランチ」してたのか。


   二人、顔を見合わせて笑う。

   暗転

   SE 雨音


6場


   別の日の放課後、雨の中庭

   ひとみ、中庭に来ている(外履きでコートを着、バッグを持っている)。

   傘(透明)をさして大根の所まで行く。大根を見ているひとみ。

   かおりとあきこ、同様にコートを着、カバンと傘を持って中庭への出口に登場


かおり ひとみ。…ひとみ。

あきこ ひとみちゃん!

ひとみ ?

かおり 何してるの。

ひとみ 別に…。

かおり もう、それ、生き返らないよ。

ひとみ 分かってるよ。

かおり あんまり引きずらない方が良いよ。

ひとみ 分かってるってば。

あきこ 私も言い過ぎたから。ごめん。

ひとみ …もういいから。

かおり 寒いでしょ。こっち入りなさいよ。

ひとみ いいから。

かおり 風邪ひくよ。

ひとみ …そうじゃなくて。ねえ、一人にしておいて欲しいの。分からない? 分から

    ないよね。人間なんてさ、人のこと本当は分からないんだ。分かってもらえな

    いんだ。

かおり ひとみだって、私の気持ち、分かってなかった!あきこの気持ちも。

ひとみ ! …そうだね。

かおり でも私、ひとみから離れようとは思わない。話せばきっと分かるから。


   かおり、中庭に出て来る。濡れながら、ゆっくりと、ひとみに近づく。

   SE 雨音、この間少し高まる。

   ひとみ、かおりに気づいて、驚きながらも傘を差し出す。二人、傘の中に入る。


ひとみ 風邪ひくよ。


   二人、微笑む。あきこ、傘をさして中庭に出て来て、二人を見ている。


かおり ねえ、大根抜いたの、なんで?三人で見守ろうって言ったよね?

ひとみ あんなふうに手をかけて育てるつもりじゃなかったから…。

かおり それでも、私たちに黙って抜くこと無いじゃない?

ひとみ たかしがね…。

かおり え?

ひとみ たかしが、近所の空き地の隅っこで大根見つけたの。喜んでさ、いっつも見て

    たの。その大根もやっぱり石の間に挟まってた。

かおり へえ。

ひとみ だんだん大きくなって本当なら抜いて食べるくらいになって、たかしが私に抜

    いてって言ったの。

かおり …。

ひとみ でもおっきな石の下にあるから抜けなくて。私、めんどくさくて、もう無理や

    り引っ張ったら、折れちゃって。

    たかし、大泣きしてね。でも私も気分悪くてさ、放っといたの。後で親からす

    っごく怒られた。

    その後すぐ、たかし、死んじゃった。

かおり ひとみ…。

ひとみ うわごとでね、「お姉ちゃん…」って言うの。それが私、「お姉ちゃん折らな

    いで」って聞こえて…。

かおり やめて。もういい。

ひとみ あんな所に大根が生えてひとりで大きくなるなんて奇跡。…たかしの奇跡を私

    がつぶしちゃった。

    その辺に種蒔いてもさ、全然生えてこないのが多いし、芽、出しても、虫に食

    われたり、病気になったりで、なくなっちゃう。もう一回、自然にあんな大根

    ができたら、今度こそたかしにやろうって、あちこちに種蒔いてたんだ。

あきこ たかしにやるって…。

ひとみ 一度くらい、姉らしいことしたかった。

    初めて大根育って、もううれしかったんだ。この中庭で奇跡が起きたんだっ

    て。でも、あきこやかおりには言えなかった。

あきこ どうして?

ひとみ たかしと私の問題だから、誰にも入ってきてほしくなかった。

    誰も知らないうちに、うまく終わってほしかった。

    でもやっぱりだめだった。やっぱり私にはできなかった。

    あのビデオも、ほんとは見るのが怖いんだ。

あきこ 何が?

ひとみ 私が、弟に無関心で、姉らしくないのが見せつけられそうで…。

    たかしがそんな私を嫌ってたらどうしようって…。

あきこ そんなこと考えてたの?たとえそうでも、もう過去は変えようがないんだから

    しょうがないでしょ。

ひとみ そう思うよ。思うけど…。

かおり ね、そのビデオ見よう。私たち、いっしょに見てあげるよ。

ひとみ え?

かおり 逃げていても、何にも変わらないんだよ。

ひとみ でも…。

かおり そうしよ。

ひとみ うん…。


   音楽

   暗転


7場


   ビデオが背景に映る。幼い姉弟がシャボン玉を飛ばしている場面。

   明転

   ひとみの部屋

   それを見ている三人


かおり これ、ひとみ?

ひとみ うわ、恥ずかしー。

かおり 何歳?

ひとみ 5歳くらいかな?

ひとみ クマのシャボン玉!これ、あったなー。

あきこ なんか奥の方に黒いのいるよ。何かの霊?

かおり あ、あれ、たかしちゃん? うわー、かわいいー。何見てんの?

    ほら、こっち、シャボン玉。

あきこ あはは! なんか面白い。


   しばしビデオに見入る三人。かおりとあきこの会話。

   ひとみ、涙ぐみ始める。


かおり (それに気づいて)ひとみ、どうしたの?やっぱり、見ない方が良かった?

ひとみ ううん! 見て良かった。ほんとに。見て良かった。


   ひとみ、泣き続ける。

   画面の中の弟は無心に遊んでいる。

   優しい音楽

   ゆっくりと暗転

   ビデオ、フェードアウト


8場(エピローグ)


   明転

   昼休みの中庭

   中庭にかおりとあきこがいる。

   二人ともコートを着、マフラーや手袋をしている。


あきこ 寒!

かおり 何だろね、中庭で遊ぼうって。

あきこ 体動かして暖まろうってか。

かおり ひとみも早弁してたのに、遅いね。

あきこ あ、そこの、レンガの剥がれてるところ良いかな。

かおり 何が?

あきこ 来年、三年生になったら、大根蒔くのよ。今度はちゃんと育てて収穫するぞ。

かおり まじで?

あきこ そこなら、五、六本できそうじゃない。

かおり それで? また塩撒いたり、虫除けスプレーしたりするのか?

あきこ 今度はちゃんと農業するから。カラスに突っつかないように言っといてよ。

 

   ひとみ、登場。


ひとみ あ、待たせてごめん。(熊型のプラスチック容器を出す)

    これ、やろうと思って。

二人  あ、それ。

ひとみ ほら。


   ひとみ、容器を両手でもって吹く。シャボン玉が飛び出す。


二人 わあ!


   三人、代わる代わるシャボン玉を飛ばす。

   ひとみ、二人の仲良く遊ぶ様子を見ながら植え込みに上る。大根の跡を見下ろ

   す。かおり、その姿に気づき、


かおり ひとみー、今日は飛行機雲出てる?

ひとみ (空を見るのは何日ぶりだろう!)あ! 蔵王が白くなってる!


   二人も急いで植え込みに上る。三人、押しくらまんじゅうのように体を寄せる。


かおり 雪だー。

あきこ 雪だ雪。冬だねー。


   音楽高まって

   幕