嘘のように雪がなくなる。

 兄弟は皆進学校の生徒、家庭にも問題はない。だが、その子だけ地域の不良グループに見込まれて中学生の頃から連れ回される。夜、自動車で走り回り、窃盗など悪い事を繰り返す。行きたくなくても呼び出される。家族はそれを阻止できない。高校ではいっぱしの番長になる。決してガタイが良いわけではない。いかついやつはいっぱいいるが、入学後の争いの中で、次第に馬鹿力だけの奴は淘汰され、頭の良い奴が上に立つようになる。そんなふうにしている内に、そいつ自身の、悪いという感覚がマヒしてしまう。警察からも目を付けられる。
 高校でてっぺんでも、さらに上にはかつての地域の不良、チンピラやヤクザがいて、どうしようもなくいいなりになるしかない。恐喝をするが、その金は上に渡す。しかし、教員や警察には自分で使ったと言うしかない。
 卒業後は東京の親戚の所で働くようになったが、すぐにやめて本職になってしまったらしい。

 教員の出来ることは何なのか。学校に来ない生徒に何が出来るか。
 自分は彼を「助ける」ことができなかった。それとも彼は、彼の生き方を自分で選んだのだろうか。

 命を奪われた中学生の苦しみを思うと、本当に歯がみするような思いを覚える。暴力で人間を支配する卑劣さを絶対に許すことはできない。
 自分が裁判員なら、死刑をためらわないだろう。